『LOST MEMORYその後』










「あとべ、あとべ、あとべ、あとべー!!」


「・・・・・・・・五月蝿ぇよ。何だよ」


どのくらい呼ばれたのか分からなかったが、

無視しようとしていたのに俺の我慢の限界が来てつい返事をしてしまった。

オレと向かい合いっこのように椅子を跨いで座っているジローが

ようやくオレが返事を返したからか、「パッ」と顔を輝かせる。

ジローの後ろには机に寄りかかるように、忍足がこちらの様子を覗っている。


「あとべー」


「・・・・・だから、何だよ」


甘え声でオレを見上げるジローの仕草は、もう見慣れてしまっていた。

机の上でさらさらと日誌を書くオレを見て、一体何が楽しいのか。

・・・・・ホント、コイツらの考えは分からん。


「本当にあの二週間の記憶ってないの?」


「ない」


ジローの質問に、オレは顔も上げずにキッパリと答えてやった。


「本当に?」


「あぁ」


「本当の本当の本当に?これっぽっちも?」


オレは日誌を書く手を止め、顔を上げてジローを真っ直ぐ見る。


「ジロー、お前しつこいぞ。ないって言ってんだろ?」


オレの素っ気無い返答に、ジローが「ぷぅ」と頬を膨らませた。


「ちょっとくらいあってもEーじゃんかー」


「んなことオレに言われたって、ないもんはないんだよ」


「ホンマにか?」


オレとジローのやりとりを傍観していた忍足が、口を挟んできた。

・・・・・・何なんだよ、コイツらは。

オレは「ムッ」として忍足へ「チラリ」と視線をやる。


「記憶があったら、テメーはこの世に存在してねーよ」


オレの言葉に忍足は苦笑いを浮かべる。


「ホンマ。けえちゃんは冷たいわー」


「次そう呼んだらぶっ殺すぞ。キモイっつってんだろーが」


シャープペンシルを折りそうになったオレは、ぐっと堪えた。

ジローは納得していないようで、まだオレに詰め寄ってくる。


「でもでもさー・・・・」


「あぁ?」


「跡部さー、日記つけてたじゃん?」


「・・・・・・あぁ、みてーだな」


「みたいって・・・・」と忍足が苦笑する。


・・・・・・仕方ねーだろ。オレは日記をつけてた記憶だってねーんだからな。

けど、あの日記に書かれた字は、紛れも無くオレの字で。

それが確たる証拠なのだ。あの日記の持ち主はオレ様なのだと。

なんで真っピンクなんだか分かんねーけど。あの色は趣味が悪過ぎる。目にも痛々しいし。


「あの日記、全部読んだんでしょ?」


「・・・・・・・・・・あぁ」


ジローが更にオレに顔を近づけてくる。


「読んで思い出さなかった?」


「そんなことで思い出せるかよ」


つーか、思い出したくねーよ、あんなこと。

日記の内容を思い出したオレは鳥肌が立った。

あんなことがこのオレ様の身に起きた出来事だなんて・・・・・今でも信じられないのに。


「ふーん・・・・・」


曖昧な言葉を発して、ジローが黙り込む。

やっとジローの質問攻めから解放される。

そう思って「ホッ」としたオレに、しかしジローは今度は違うことを言ってきた。


「あとべ」


「・・・・・まだ、疑ってんのか?本当にオレは何も・・・・・・」


「あのピンクの日記、オレにも見せてよ」



「はぁ??」



見せろ?



あの日記をか?





・・・・・じょ、冗談じゃないっ。誰が見せるか、誰がっ!!




「・・・・・嫌だ」


「えーなんでー?Eーじゃん!!見せてよー!!」


オレの拒否をもろともせず、ジローは食い下がる。


「どんなこと書いてあるのか知りたいんだもん」


「オレも見てみたいわ。跡部が何を書いたんか気になるし」


・・・・・・・はぁ!?

忍足まで何言い出しやがんだっ!!


「あとべのことだから大事に保管してるんでしょ?」


ジローが「ニヤリ」と笑う。

・・・・・くそっ。「捨てた」って言おうと思ったのに・・・・・。


「だ、駄目だっ!!絶対見せねぇっ!!」


オレは慌てて首を横に振る。


「なんでそんなに嫌がってるの??」


「・・・・ははーん。さてはオレらに見せられんことが書いてあるんやろ?」


・・・・・・・・・・う。

す、鋭いな、忍足のヤツ。

こーゆー時ばっかり洞察力があるなんて、ある意味感心するぜ。


「あー!!もしかして、やっぱり鳳のヤツが何かしてたんでしょー!?」


ジローが深刻な顔でそう言ってきた。


「いや、或いは宍戸かもしれん。アイツ、帰りはずっと跡部と一緒やったしな」


オレの肩が「ピクン」と微かに揺れる。


・・・・・・・・・・や、やばい。

このまま二人に尋問されてたらボロが出そうだ。

どうにかこの状況を打開する方法はないかとオレは思案する。


「そーいえば、帰りはいっつも宍戸とだったね、あとべ」


「そうやで。ご主人様の特権や言うて、毎回無理矢理連れて行きよる。

 そのおかげで夜道で跡部とラブラブできへんかったしな・・・・・って、痛っ!!


忍足の一言に、オレは無意識のうちにボディーブローをかましていた。


「ひっどーい。暴力反対やで、跡部」


「黙れ。キモイこと言ってんじゃねぇ」


「忍足のこと殺してもいいから日記見せてよー」


「なんでやねんっ!!オレが死んだら跡部が悲しむやろ!?」


このままでは収拾がつかない。

そう思ったら、知らず知らずのうちにため息がもれていた。

・・・・・・・仕方ねぇ。こうなったら・・・・・・・・



「・・・・・分かったよ。そこまで言うなら見せてやる」


「ホンマか!?」


「わーい♪やったー♪」


ジローも忍足も嬉しそうに反応した。


「でも、残念だな。日記はここにはねぇ」


「「えー!?」」


不満の声を上げる二人の前で、オレは「ニヤリ」と笑った。


「日記は樺地に預けてあるんだよ」


「樺地やな!?やっしゃ!!」


オレの返答を聞くなり、忍足は意気込んで教室を飛び出す。

忍足の機敏な行動に、ジローも慌てて


「待ってよー!!抜け駆けは駄目だかんねー!!」


わたわたと教室を出て行った。





途端に静かになる教室。

オレは「はー」と長いため息をついた。


「・・・・単純な奴らで助かったぜ・・・・・・」


あんないろんな意味で危険な日記を、他人になんか預けるかよ。

いくらオレ様が樺地を信頼してるって言ってもな。

・・・・・いや、信頼しているからこそ任せられないって言った方が正しいな。


「まだまだツメが甘ぇんだよ、全く・・・・・」


オレは徐に自分の鞄から一冊のノートを取り出す。

綺麗なカバーの付いたそのノートこそが、あの問題の日記だった。

真っピンクなままだと目立つから、それを隠すためにカバーを付けた。



オレはその日記にそっと手を添える。




ここに書いてあることが全部本当なら・・・・・・・・・・・





「オレはお前に感謝しなきゃなんねーのか?なぁ、宍戸・・・・・・・・」





オレは「ふっ」と笑ってみる。



そうしてゆっくりとページを開いたのだった。













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