『LOST MEMORYその後』










オレが記憶喪失になって、もう一週間が過ぎようとしていた。

毎日が騒がしくて楽しい・・・・・と言っていいのだろうか。

ユウシもジロもチョウタロウも毎日毎日仲良く喧嘩をしているし、

オレが登校すれば、勿論三人からおはようの挨拶として頬にキスをされる。

まぁ、オレもされて嫌な気はしないので、とゆーか挨拶は返さなくてはならないから

毎日そんな三人の頬にキスを返す。

教室でもバタバタと「今日はオレが隣だ」とか「今日こそは二人だけでご飯食べようね♪」とか

そんな会話ばかりが繰り返されて。

内心、オレは戸惑っていた。

いや、うん。悪い気はしないんだ、別に。

午後三時のおやつ時間にはガックンのお手製おやつが届くわけだし。

いろんな意味で手厚い保護を受けているんだとも思う。

登下校はいつも宍戸様の鞄を持って、悠々と二人で学園に向かうのも、

最初こそ何故か体が拒否反応を示していたが、もう一週間も同じことをしていれば慣れてしまっていた。

だからどうこうと文句を言うべきじゃないんだと。

そう・・・・・・思ってはいるんだけど。

でも・・・・・それでも、どこかで不安が過ぎる。

今のオレは、本当に昔のオレと同じだったのであろうかと。

記憶が無いのは不安なんだ。

不安で。

このまま昔の記憶が戻らなかったら?

・・・・・・そんなことばかりを考えては心配して不安に思っていた。






でも、そんな不安さえもいつしか薄れていった。

新しく記憶が作られていく日々のおかげだろうか。

もう記憶喪失で一週間を経過したのだ。

・・・・・・無事に過ごせているのかどうかは、まぁ、別として。

後ろ向きに考えても仕方ない。

これからは「新しい跡部」として、日々を過ごしていけばいいのだ。

何も怖がることなんかじゃない。

ポジティブに考えていこう。

そう思い直したのが一週間と二日経った日のことだった。






記憶喪失になって一週間と三日経ったその日の朝。

オレはそれまでと同じように宍戸様宅の玄関にて、宍戸様のお迎えにあがっていた。


「ピンポーン」


もう聞きなれてしまったチャイムを押す。

暫くして。

「ガチャリ」とドアを開けて制服を召された宍戸様が出てこられた。

オレはそれまでと同じように朝の挨拶をする。


「おはようございます、宍戸様」


深く一礼をして、顔をあげてから「にっこり」と宍戸様に微笑む。

これは一番最初の日に宍戸様から申し付けられた作法だ。

いつもならここで「ニヤニヤ」とちょっと嫌な笑いを浮かべて

「ご苦労様♪」と上機嫌に言いながら、オレに鞄を差し出す宍戸様。

しかし、今日は何故か違っていた。



「・・・・・・・おう」


短く素っ気無い返事を返してきた宍戸様は何故か相当に不機嫌だった。

・・・・・・・?

挨拶の仕方が悪かったのか?

オレの心に不安が過ぎる。

宍戸様は何も言わずに歩き始める。オレは慌てて声をかける。


「あの、鞄は・・・・・・・」


宍戸様の鞄を持つのも、宍戸様が一番最初の日に仰ったオレの仕事。

のはずだったのに。



「・・・・・・いい、自分で持つ」



ぶっきらぼうにそう返されてしまった。

・・・・・オレ、何か気に障るようなことをしたのか?

自分の行動を振り返ってみる。

チャイムを鳴らす。一礼をして挨拶をする。にっこりスマイル。荷物持ちを申し出る。

・・・・・・・いつもと同じ、だよな?

しかし。

実際問題、宍戸様は機嫌を損ねている。

一体何故?

そんな疑問と、怒らせてしまったのではないかという不安に耐えられなくなったオレは

撫しつけながらも、宍戸様にその訳を尋ねてみた。


「宍戸様」


「・・・・・・何だよ」


・・・・・・な、なんだ。すごい不機嫌だぞ、ホントに。


「・・・・・オレ、何か気に障るようなこと・・・・しました?」



宍戸様の歩みが止まる。

そうして首だけをオレの方に向けた。

宍戸様の瞳がオレを映す。


その瞳は怒りの色を含んでいた。



オレの心臓が不安にドクドクと脈打つ。



「・・・・・・・別に」


何を言われるのかと身構えていたオレを余所に、

宍戸様は吐き捨てるようにそう言って、また歩き始めてしまった。

・・・・・・・・何だよ。じゃあどうしてそんなに不機嫌なんだよ。

宍戸様の冷たい態度に、オレは「ムッ」と眉をしかめた。





やはり宍戸様を不機嫌にさせていたのはオレだったようだ。

昼休みに、ふらりと通りかかった教室から、機嫌のいい宍戸様の声が聞こえた。

朝からずっと気になっていたオレは、それとなく教室を覗いてみた。

そこにはガックンと何やら楽しそうに会話する宍戸様。

あぁ、何だ。機嫌はもう直ったのか。

そうホッとしたオレは、宍戸様に午後の挨拶をしようと声をかけようとした。

「学校でオレに会ったら無視せず、必ず声をかけること」

これまた一番最初の日に宍戸様から言われていた行いだ。



けど。

喉から出かかった声を、オレは飲んでしまった。

宍戸様が。

宍戸様がオレに気付いて、オレと目が合った瞬間。

さっきまで笑って柔らかい表情だった彼の顔つきが一変したから。



・・・・・・・・何だよ

やっぱりオレが何か気に入らないことをしたんじゃないか。



宍戸様の一方的な怒り。

オレ自身では全くもって見に覚えの無い怒り。



そんな怒りを向けられて、オレは居ても立ってもいられなくなって

自分の教室に逃げ帰るように、その場を立ち去った。





それでも下校はやっぱり宍戸様を待たなくてはならない。

これまた宍戸様からの言いつけだから。

朝から理不尽な怒りを向けられているオレとしては

勝手に帰ってしまいたい気持ちでいっぱいだったが、やっぱりできない。

言いつけは絶対だから・・・・・・

どこかでそう自分に言い聞かせていた。


「けぇご♪今日は随分深刻な顔してんなぁ」


宍戸様が着替えて部室から出てくるのを待っていると、ユウシが声をかけてきた。


「・・・・・・あぁ。まぁ、ちょっとな」


覇気無く答えるオレの髪を、ユウシは優しく撫でる。


「体調悪いんやったら、今日は宍戸の送り迎えやめてオレの家に来ぇへん?」


ユウシが耳元で甘く囁いた。


一瞬そうしようかと考えたが、オレは考えを改めた。

宍戸様が不機嫌な理由はオレなんだから、他人に頼っても解決にはならない。

今日はそうやって逃げられても、明日の朝、またお迎えにあがらなくてはならないのだから。


「なぁ、けぇご。聞いてる?」


「・・・・そういうわけには、いかない・・・・から」


「オレの家に来るん、怖い?」


「そういうわけじゃ・・・・・」


オレは慌てて顔をあげてユウシに返事を返す。


「オレかて、もう一週間くらいは我慢したんやで?そろそろオレに合わせてくれてもえぇんちゃう?」


ユウシの言葉に、オレは首をかしげた。

我慢??・・・・・我慢て、一体何を我慢してるんだ??

合わせろ??・・・・・一緒に帰ってくれてもいいじゃないかってことか??


「けぇごはオレの大切な嫁はんなんやし・・・・」


ユウシの顔が一層オレに近付く。

息のかかりそうな距離にまで近付いたとき。



「おい、忍足!!跡部から離れやがれっ!!」



声のする方へ顔を向けると。

そこには着替えを済ませた宍戸様が怒りを露わに立っていた。



ツカツカと歩いて近付いてきた宍戸様にオレは腕を掴まれる。


「ぼさっとしてねーで、さっさと行くぞ、跡部!!」


「え、あぁ。はい」


宍戸様の言葉に押されて、オレは宍戸様に引っ張られるままに歩き出した。

ユウシの方を「チラリ」と見ると、何やら「ムッ」とした顔でこちらを見ていた。

・・・・・・あぁ、もう。

ユウシの機嫌まで損ねてしまった。最悪だ。




ずんずんと歩みを止めず歩き続ける宍戸様。

流石にオレも掴まれている腕が痛くなってきた。


「ちょっ・・・・腕が痛いって」


けれど、宍戸様からは反応が無い。


「腕痛いって!!宍戸様っ!!」


そう叫んだら、急に宍戸様が止まって、腕を放した。

一体何だというんだ、今日は。

掴まれていた腕がジンジンと痛い。



「・・・・・・んで」


「え?」


宍戸様が「キッ」とオレを睨み付けた。



「なんでお前は忍足を拒絶しねぇ!!」



「・・・・え」


宍戸様がオレを怒鳴りつける。

突然の罵声に、オレはただただ戸惑いの色を見せるしかなかった。













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