『LOST MEMORYその後』










何を怒っているのだろう、この男は。

なんでオレを睨み付けてくるのだろう。

戸惑いを隠せないオレと何かに憤慨する宍戸様。


何故ユウシを拒絶しないのか?

そんなの・・・・・


「・・・・・・・ユウシはオレの・・・・大切な人・・・・・だから・・・・・?」


「ポツリポツリ」と紡いだオレの言葉に、彼は「カッ」となってオレの胸倉を掴んできた。

凄い力だ。


「お前、バカじゃねーのか!!」


響く宍戸様の怒声。

両手で力いっぱい胸倉を掴まれたオレは、苦しくてもがいた。


「お前があんな眼鏡ヤローに犯られようが、どうしようがオレの知ったこっちゃねーんだぞ!!」


や・・・・やられる??

何を言ってるんだ、この男は。


「苦しっ・・・・はなっ・・・・・」


「自分の身も守れない今の自分が情けなくねーのかよ!!」


自分の身を守る?

それは今の状態を言っているのだろうか。


「忍足が大切な人だと?いつからそんな関係になったんだよ、お前等はっ!!」


いつから?

いつからって前々からなんじゃないのか?

一番最初にそう説明してきたのはユウシ本人じゃないか。

だから、オレは・・・・・・



「全部嘘に決まってるだろ!!お前、からかわれてるのが分かんねーのかっ!!」



嘘?



嘘って何が?



からかう?



一体どういうことなんだ



宍戸様の言葉に驚きを隠せないオレ。

宍戸様は胸倉を掴んでいた両手を放して、思いっきりオレを突き放した。


「・・・・・・痛っ」


勢い余って「ぺしゃり」とその場にオレは尻餅をついた。


「何する・・・・」


訳の分からない言葉と彼の怒りに、オレは「ムッ」として顔をあげる。

そこには、先程とは打って変わってひどく辛そうな顔をした彼が立っていた。


「・・・・・・そう、全部嘘なんだよ」


宍戸様が顔をそらす。


「ジローのヤツも忍足のヤツも鳳だって!!全員お前に嘘を吹き込んだんだよっ!!」


「・・・・・・宍戸・・・・・様」


そう声をかけたら、彼がオレを怒鳴りつけた。


「様なんか付けんじゃねー!!」


なっ。

だって「様を付けて呼べ」って言ったのはアンタだろうが。



「オレだってお前に嘘付いたんだよっ!!お前がオレの下僕なわけねーだろーが!!」



聞いてはいけないことを聞いてしまった。

そう感じた。



この一週間と少し。

あの時あの場所で言われたことがオレの全てだったから。

記憶の無いオレが唯一頼っていい言葉だと思い込んでいたから。



それが全て嘘だったと。



全て虚偽だったのだと。



じゃあオレは一体誰なんだ?

どんな人間だったんだ?



今までの記憶が無い不安を。

今のオレの記憶で何とか前向きに考えようとしていたのに。

その記憶さえも。信じてはいけない、全ては嘘なのだと言われてしまえば。



オレは一体何を信じて生きていけばいいんだ?



「・・・・・・オレは、別に好きでお前にあんな嘘を付いたんじゃねぇ」


吐き捨てるように彼は言う。


「忍足のヤツらがとんでもねー嘘言って、お前を抱きしめやがるから・・・・・だからっ!!」


彼の瞳がオレを真っ直ぐに見つめた。


「お前みたいな頼りないヤツ・・・・アイツらから守るにはオレがお前を見てやるしか・・・・・・」


守る?

ユウシ達から?

オレのことを・・・・・・・この男が?


「だから下僕だって言ったんだ。そうしたら、お前をずっと守ってやれると思ったから・・・・・・」


登下校を一緒に行っていたのは。

鞄を持たせたいがためじゃなくて。

オレをユウシ達から守るためだと。

そう言っているのだろうか、この男は。


「・・・・・・朝から怒っていたのは、そのせい?」


オレがそんな宍戸様・・・・いや、宍戸の気持ちを知らずにいたから?


「・・・・・・違う」


宍戸は短く否定をする。

じゃあ一体どうしてあんなに怒っていたんだ。


「・・・・・・・夢・・・・・」


「え?」


「・・・・・・夢、見たんだ」


静かにそう呟いた宍戸の言葉に、オレは眉をしかめた。

夢を見た?

その夢が気に入らなかったから、オレに八つ当たりをしていたのか?

そう思ったら、何て質の悪いヤツだと怒りが込み上げてくる。



「記憶を無くす前の跡部の夢を見たんだ」



彼の言葉に、オレは目を見開いた。

オレの・・・・・夢・・・・・?

記憶を無くす前の・・・・・・・・?


「跡部がさ、笑って言うんだよ。“バーカ、お前に守ってもらうまでもねぇ”ってさ」


宍戸が髪をかき上げて、皮肉な笑いを浮かべる。


「“オレ様をこき使うんじゃねーよ、宍戸ぉ”ってさ。そう、言いやがるんだよ・・・・・」


宍戸が見た夢の中のオレは、たいそう宍戸に対してオレ様気質なようだった。

オレ、そんな言葉遣いでアンタに話しかけていたのか・・・・・・・


「でさ、もしかしたら、今日ドアを開けて立ってる跡部は・・・・・記憶が戻ってるかもしんねぇって」


宍戸・・・・・・・・・


「元の跡部になってるかもしんねぇって・・・・・・・・そう、思って・・・・けど・・・・・」


宍戸が辛い表情を浮かべる。


「けど、そんなわけなかった。やっぱりお前はオレの言うことを聞く跡部だった」


宍戸・・・・・・・・オレ・・・・・・・・・



「頼むから・・・・・・頼むから、元に戻ってくれよ・・・・・・」



宍戸の悲痛な叫びに、オレは胸が「ズキリ」と痛んだ。


「オレの言うことを何でも聞くのは本当の跡部じゃないんだよっ。そんなの偽者なんだよっ」


ニセモノ・・・・・・

オレはニセモノ・・・・・ホンモノじゃない・・・・・・・・

宍戸の言葉がひどくオレにのしかかる。


「元に戻って・・・早く、オレらを罵倒してくれよ。なぁ、跡部っ」


そんなこと・・・・・・・・

そんなこと言われても・・・・・・・・・・・


「バーカって、オレのこと言ってみろよ!なぁっ!!」


胸が・・・・・痛い・・・・・・・・


「記憶が無いまんまで、満足しないでくれっ!!何が何でも頑張れよっ!!お前は跡部だろ!?」


もう聞きたくなかった。

何もかも聞きたくなかった。

宍戸の一言、一言が、今のオレの心に突き刺さった。

絶えられなかった。

だから、オレはその場を走り去った。

振り返ることなく。一直線に。





全てが嘘だったなんて。

今のオレはニセモノだなんて。



そんなこと、言ってほしくなかった。




元に戻ってくれなんて・・・・・

そんなこと・・・・・・




「・・・・・・・オレだって・・・・オレだって、記憶を取り戻したいさ」



けど、何も思い出せないんだ。

なんであの場にしゃがみ込んでいたのかも。

どうして頭がズキズキと痛んでいたのかも。

何もかも。

何もかも思い出せないんだ。

どんなに頑張っても、一つも思い出せないんだよっ。




ふと。

その時、あることを思いついた。



「・・・・・確か、あの時チョウタロウがオレに球ぶつけたって言ってた」


そうだ。

それで、当たり所が悪くて一部記憶喪失になってしまったのだと。

医者がそう言っていた。


「・・・・・・・・だったら」


ひどく危険な賭けなのかもしれない。

今以上にもっとひどくなるかもしれない。

だけど。


「記憶が戻るかもしれない・・・・・・・」


その可能性があるのなら。

やってみる価値はあるのかもしれない。



「宍戸・・・・・・オレ、頑張ってみるよ。頑張って記憶を取り戻してみせるよ」



そして、アンタのこと

“バーカ”ってさ

言って笑ってやるんだ











オレは静かに真ッピンクのノートを閉じた。


「・・・・・ったく。オレ様としたことが・・・・・宍戸に焚きつけられるなんてな」


こんなこともあるもんなんだな。

人知れず笑みが零れた。

そうしてそっとノートを鞄の奥底にしまう。


「おい、跡部っ!!」


誰も居ない教室に声が響く。

聞きなれた声に振り向けば、そこには部活の荷物を持った宍戸。


「部活時間だぜ、部長が遅れんなよっ!!」


オレは宍戸に「フッ」と笑いかける。


「バーカ」


髪をかき上げて、宍戸に「ニヤリ」と笑みを向けて。


「誰に言ってやがんだよ。オレ様が遅刻するわけねーだろーが。あぁん?」


宍戸も「ニヤリ」と笑い返してくる。


「・・・・・・やっぱ、跡部はそうじゃねーとな」


「へへっ」と嬉しそうに笑う宍戸に、オレも少し笑った。


「オレ様の荷物も運べよ、宍戸」


「はぁ!?んなん、自分で持てよっ」


「・・・・・誰が誰のご主人様だったか、忘れたのか?アーン?」


「ジロリ」と睨んでやれば。

苦虫でも潰したような顔を向ける宍戸。


「〜〜〜〜〜・・・・・・跡部がオレのご主人様ですっ」


「分かってんなら早く運べよ」


「・・・・・・・けっ。やっぱ記憶喪失の頃の跡部の方がよかったな。しおらしくて」


ぼそりと言った宍戸の言葉に、オレは眉をピクリとさせる。


「何だと?」


「・・・・・いや、何でも」



まだ何かブツブツ言っていたが、

宍戸は片手に自分の荷物を、もう片手にオレの荷物を持った。

オレはその様子を遠くから眺めて。



「・・・・・・宍戸」


「あぁ?」


振り向いたヤツに極上の笑顔を向けて。



「・・・・・・ありがとな」



カッと赤みを増した宍戸の頬。


「・・・・・・跡部が礼を言うなんて、今日は槍でも降るな、こりゃ」


「バーカ。社交辞令だ」




ホント、お前には感謝してるんだぜ。

宍戸。













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