『会いたくて』









人の気持ちは変わりやすく、移ろ気でだけど衝動的に人を動かすモノだと思う。

想いは心の中で想えば想うほどその量を増し、そして遂には溢れ出してしまう。

たぶん、気持ちってそーゆーモノなんだと思う。



だから、オレはここへ来てしまったのだ。

・・・・と、思いたい。

「ここ」というのは、つまり・・・・その・・・・

跡部さんの家の玄関のことで・・・・・

なんで来てしまったのかというと・・・・・・

衝動的に動かされて・・・気付いたら来てしまっていた。

勿論約束していたわけでもないし、お伺いも立ててない。

要するに、突発的に何のアポも取らずに勝手に来たのだ。



本人には何て言えばいいのだろうか?

「テニスのことで・・・」などと上手く言うべきだろうか?

それならきっと怒らない。

安直な理由よりもずっと信憑性があるし、納得してもらいやすい。


大きな門の前で、それでもどうしようかと迷っている自分の姿がひどく滑稽でおかしい。


ここまで来たのだから、インターホンを押してしまえばいいのに・・・・


自分で思って「クスッ」と笑ってしまった。

けれども、あの真面目な人のことだから。

何の用も無く来たなんて言えない。

言ったらきっと凄く怒らせてしまう。

「くだらないコト言うなっ!!」とたぶん言われてしまう。

跡部さんを怒らせたくないし、オレも怒られたくないから言えない。

言えないから困っているのだ。

本来何の用も無く来てしまっているからこそ、他に理由が見つからず困っているのだ。


「やっぱり、テニス関係ならうまくいきそうだよなぁ・・・・」


「ポツリ」と呟いてみる。


けれどそれはつまり、あの人に嘘をつくことになるわけで・・・・・


でも、ここまで来たんだし・・・・・・・・・




オレは意を決してインターホンへと手を伸ばした。

二回ほど鳴らして反応を待ってみる。

・・・・・・・変にキンチョーしてしまうのは何故だろう?

ドキドキと脈打つ鼓動を落ち着かせようと深呼吸をする。


“どちら様でしょう?”


インターホンから声をかけられ、オレは「ビクリ」と反応した。


“・・・・どちら様ですか?”


「あ、あの、氷帝テニス部の鳳と言います。景吾さんは――・・・・」


“景吾坊ちゃまですね?暫くお待ち下さい”


丁寧返事を返され、そこで会話は途切れる。



「・・・・景吾坊ちゃまか・・・・・・・・」


いや、まぁ、跡部さんの家は物凄いお金持ちだしなぁ・・・・・・・


そう思いつつ、目の前に広がる豪邸を見上げる。

改めて見るとやはり大きい。

こんな大きな門構えをされていると、

自分とあの人では住む世界が違うのではないかという気分が心を支配し、

何故だか少しだけ物悲しくなる。


「・・・・・やっぱり高嶺の花なのかなぁ・・・・・・・」


オレはただただ遠くをぼんやりと見つめた。

ふいに。

目の前の門が少しばかり開いた。

隙間から訝しげに顔を覗かせたのは憧れのかの人。


「あーん?鳳、何の用だ?」


「跡部さんっ!!」


オレは「パッ」と顔を輝かせる。

気だるそうに髪を掻き揚げてから、跡部さんがオレを見つめる。

跡部さん・・・・・・・・・・・・


「何の用だって聞いてんだよ」


「ええと・・・・あ、会いたくて来ちゃいました」






・・・・・・・・・・・あ







・・・・・・・・・・・・・・しまった





つ、つい本音が・・・・・・・・・・・・・・






そう

ただただ単純に会いたくて

その気持ちでいっぱいになってしまって

オレは跡部さんのもとに来てしまったのだ



先程まであんなに「テニス関係で来たことにしよう」と思っていたのに

ついつい我慢できすに本音を言ってしまった。

オレは自分の失言に心の中で深く反省した。

それと同時に「ふざけるなっ!!」と怒られる気がして体を硬直させる。

・・・・・・・・・が、一向に跡部さんからの叱責が無くて

不思議に感じたオレは、ぎゅっと閉じた瞳を開けて跡部さんを見た。

そこにいたのは、びっくりしたような表情でオレを見つめながら

耳まで真っ赤になっている跡部さんだった。


「あ・・・・・あの・・・・跡部さん、オレ・・・・・・・」


慌てて何か言おうとしたら、


「・・・・お前、それだけの理由でここまで来たのか・・・・?」


跡部さんが「ぽつり」と言った。

今更「違います」なんて言えない。

言っても説得力に欠ける。

あーもーオレのバカ・・・・・

自分の失態に心の中で泣きつつ、


「・・・はい、跡部さんに会いたくて・・・・・・・来てしまいました」


はぁ・・・・もうなんて弁解したらいいのやら・・・・・

迷惑をかけるつもりなんて無かったのに・・・・・・

迷惑だと・・・・・思われたかもしれない。

はぁ・・・オレのバカ・・・・・・


「・・・・その、すいません、まともな理由も無いのに押しかけてしまって・・・・」


オレは頭を下げた。


「あの・・・・・じゃ、オレ、帰ります。失礼しました」


くるりと向きを変えて歩き出そうとしたら、跡部さんがオレを呼び止めた。


「待てっ!!」


突然声をかけられて、オレは多少驚いて振り返る。


「は、はい」


「お前、帰んのかよ?」


「・・・・・・え、あ・・・・・・その・・・・・・」


視線をキョロキョロさせて頬を朱に染める跡部さんが小声で言った。



「・・・・・・オレに会いに来たんじゃねーのかよ?」



跡部さんと視線が合った。



「・・・・・・・え」



それは・・・・・・・・




つまり・・・・・・・





怒ってない・・・・・・・ってコト・・・・・?






きょとんとするオレに見つめられ、跡部さんはますます顔を赤くさせ


「会いに来たんなら、茶ぐらい飲んでけっ」



ぶっきらぼうに言われたその言葉に

オレの気持ちは舞い上がるようで



「・・・・え・・・・え・・・い、いいんですか!?」


あんまりにも嬉しくて、跡部さんに駆け寄ると

跡部さんは「フッ」と優しく微笑みながらオレを見上げて



「・・・・・・オレに会いたかったんだろ?」



「はい!!会いたかったです!!!」




人の気持ちとは

時として 人の行動力になってしまうのだ













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