『ひよこ』









長い渡り廊下をバタバタと走る。

オレが愛してやまないあの人はどこ?

教室には見当たらなくて、ひょっとしたらテニスコート?

そう思いながら、視線をキョロキョロさせてみる。



あ。



発見。



オレの視線の数十メートル先に探していたあの人の姿。

やっと見つけられた相手の姿に嬉しさがこみ上げて、


抱きついちゃえっ


距離を保って狙いを定めて、オレは一気に間合いをつめて飛びついた。


「あーとーべー!!」


「 !!! 」


オレは跡部の首回りに「ギュッ」と抱きついて

鼻先を掠める跡部の香りに「えへへ」と笑みをこぼした。


「探してたんだよ、跡部ー♪」


「・・・・ジロー、分かったから放せ」


跡部が少し首を後ろに回してオレに言った。


「折角見つけたのに放すなんてヤダ」


「あぁ?何言ってんだよ、お前。息苦しいから離れろ」


ここで諦めて手を放しちゃったらオレの負け。

分かってるんだ。

ここでねばれば跡部は必ず諦める。

オレが一向に離れないことが分かった跡部は一度だけ深くため息をついて


「・・・・ったく。しょーがねーな、ジローは」


困ったように笑いながら、オレの頭に「ぽんっ」と手を置いた。


・・・・・・ほらね。


跡部が許してくれたことが嬉しくて、オレは更に抱きついた。


「ほんま、ジローと跡部は仲がいいねんなー」


聞き慣れた声色とイントネーションに、

オレは跡部から離れずに視線を向けた。


「忍足、居たの?」


跡部以外目に入らなくって気付かなかったや。


「・・・・ジロー、意外にきっついコト言うねんな・・・・・」


忍足が乾いた笑いを洩らした。

・・・・むむ。もしかして跡部、忍足とずっと一緒に居たの?


「跡部。忍足と何してたの〜?」


オレは「ぎゅーっ」と抱きついたまま、跡部に不満の声をあげた。


「何もしてねーよ。ほんの1、2分前にたまたま会っただけだ」


「あ。ひっどー。けえちゃん、その言い方冷たない?」


「五月蝿ぇ。本当のコトだろうが。つーか、その呼び方やめろ、キモいぞ」


・・・・・折角跡部を見つけられたのに。

忍足とばっか楽しそうに話してるなんて、スッゲーやな気分。


「オレも会話に入れてよー。つまんないCー」


「何言ってんだよ、ジロー。そもそも用事があったんじゃねーのか?あ?」


跡部の瞳が忍足からオレへと向けられた。

・・・・えへへ。何か嬉Cーや♪

そんなオレと跡部の微笑まCーやり取りを見ていた忍足が



「・・・・ジローってひよこみたいやな」


と、ため息混じりにぼやいた。



「「 ひよこ? 」」



オレと跡部は一瞬ぽかん。


「そ、ひよこ」


忍足は少し「ニヤニヤ」しながら更に言葉を続けた。


「跡部の後をずーっと付いて来よるやん?なんや刷り込みみたいや」


「・・・・・なるほど。確かにひよこみてーだな」


忍足の見解に、跡部が考えながら同意する。


「暖かくなってくるとすぐに寝るしな」


「そうそう。んで、起きたらピヨピヨ五月蝿い。まるでひよこやで」


そう言って、二人は顔を見合わせて「ぷっ」と吹き出した。


・・・・・・・何だか二人してオレのコト馬鹿にしてない・・・・?

オレは「ムッ」として二人に反論した。


「オレ、ひよこなんかじゃないCー。てゆーか、跡部の方がひよこじゃん」




「「 は? 」」




予想外のオレの反論に、二人が間の抜けたような声を発した。


「跡部なんてちっちゃい頃、いつでもどこでもオレの後をくっついてきたくせに」


オレの思わぬ反論に、一気に真っ赤になる跡部。


「なっ・・・・!!そりゃ、もうずいぶん昔のコトだろーが!!」


「でも跡部さー、オレや宍戸の後ろをいっつも一生懸命くっついて来てたよねー」


へへーんだ。オレは跡部の昔を知ってるんだからね。

ちょっとだけ出てきた昔話に、跡部はバツの悪そうな顔をした。


「オレ達の姿を見失って、すっごい泣いたことあったよね、跡部♪」




後ろをついてきてたはずの跡部の姿が見当たらなくて。

慌てて道を戻って跡部を見つけた時、跡部はわんわん泣いてオレ達を探してた。


オレ達を見つけた途端、

走りよってきて抱きついてきたのは・・・・跡部だよ?

「寂しかった」って「置いてけぼりにしないで」って泣きじゃくりながら。


今の跡部からは想像できないよね、ホント。

跡部にとっては恥ずかしくて堪らない過去らしいけど・・・・・

でも、オレにとっては凄く嬉しかった思い出なんだよね。




「ジロー!!それ以上言ったら殴るぞ!!昔話なんてすんじゃねぇ!!」


恥ずかしさと怒りで真っ赤になった跡部が拳を作った。


「あー!!暴力反対!!何でも殴ればいもんじゃないCー!!」


「昔話を持ち出すテメーの方が悪いんだろーが!!」


「ピヨピヨ五月蝿いのは跡部も一緒じゃんかー」


「あーもー、分かったよ!!オレがひよこでもいいから、もー黙れ!!」


「ぶーぶー」と抗議するオレと真っ赤に怒っている跡部。

いつのまにこーんな性格になっちゃったんだろー、跡部・・・・

ちっちゃい頃はホント跡部の方が「べたべた」してきてたのになー・・・・


忍足がまた深くため息をついた。


「ここまで仲いいとホンマ妬けてくるわ・・・・・」


「なんや悔しいで・・・・」と呟いた。


「オレもけえちゃんに抱きつきたいわー」


「・・・・キモいコト言ってんじゃねーよ、忍足。お前なんて願い下げだ」


「ジローには抱きつかれても怒らんくせに。殺生やわ、けえちゃん」


忍足の愚痴に跡部は「くすっ」と笑って、


「当たり前だろ。ジローは・・・・・」


オレは?


「・・・・ジローは特別だからなっ」





・・・・・トクベツ・・・・


オレが・・・・・・跡部のトクベツ・・・・・・




その響き、何かすっごい嬉しいや・・・・・・

期待・・・・してもいいのかな?



「・・・・えへへー。跡部、大好きー♪」


さっきのひよこ争いなんて、もうどこへやら。

跡部も、そんなオレにため息をついて少し笑った。






何だか 自信がついちゃうなー



跡部がなつく相手は他の誰でもない オレ だって



ね 跡部?













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