くしゃくしゃのボクの頭を優しく撫でて



まるで巻き毛のカナリアみたいだと 目を細めて言ってくれたこと



今でも ボクは覚えてる












『習慣』










そよ風が気持ちよくくるくるしたオレの髪と頬を撫でていく。

肌に優しいその感触に、オレは少しご機嫌になってゆっくりと伸びをした。

ガランとした教室にはオレ以外誰も居なくって、遠慮がちに開けてくれたんだろう、

少し開いた窓から、優しく優しくそよ風が吹き込んでくる。

オレ以外誰も居ないのはしごく当たり前のことだった。

何故なら、今この時間は本来放課後だ。つまり部活時間というわけ。

オレは勿論帰宅部じゃない。れっきとしたテニス部所属。

しかもレギュラーを務めてたりする。

それなのに何故オレが部室に行くでもなく、テニスコートに行くでもなく、

自分の教室でこんなにぐたぐたのんびりしているのかというと。


「おらっ!!ジロー!!やっぱりここにいたなっ!?」


あぁ、ほら来た。

オレは机の上に突っ伏しながら、怒鳴り声のする方へ視線を投げかけた。

そこには眉をしかめて大袈裟にため息をつく跡部が居た。


「あとべー。遅かったねー」


「遅かったねじゃねぇ!!今何時か分かってんのか、お前は」


・・・・・・・そう。オレはこれを待ってたんだ。

レギュラーの地位にまでなったオレが部活をサボれば、

顧問の榊センセにも後輩にも、それにレギュラー落ちした奴らにもいい印象を与えない。

オレはそんなのどーでもいいんだけどね。

跡部は何だかそのへんをすごく心配する。

氷帝学園のテニス部員はざっと200人はいるのだ。

跡部は勿論その頂点。つまりはテニス部の部長。

個人的にも心配してくれているし、部長という役目からもサボる部員は見逃せない。

そんなわけだから、オレが部活をサボれば当然の如く跡部がオレを捜しに来る。

それがもう当たり前の習慣になりつつあった。

どんな理由であれ、跡部がオレを捜しに来てくれることが嬉しくて

以来オレは当然のようにサボるようになった。

本人の手前、「練習がやだからサボる」ってことにはしてるけど。

実は跡部が迎えに来てくれるからサボるんだよね。えへへ。

今回も跡部はやっぱりオレを捜しに来てくれた。

それだけで口元が緩んでしまう。


「おい、聞いてんのか」


「聞いてるよー。部活の時間でしょ?」


「分かってんならサボるな。来いって言ってんだろーが」


全く動こうとしないオレに痺れを切らしたのか、跡部が教室に入って来た。

ツカツカと俺の傍までやって来る。

それでもオレは椅子から立ち上がることなく机の上に突っ伏したまま近付く跡部を眺めていた。

跡部はやっぱり綺麗だなーとか思いながら。


「ほら、ジロー・・・・」


先程の苛立ちの口調から優しい口調へと変わった。

それだけで跡部が純粋に心配してくれていることが分かってオレは何だか嬉しくなる。

オレは目を細めて跡部に「にこっ」と笑いかけた。


「あとべー」


「あぁ?」


「風がすっごく気持ちEーんだー」


「風?」


「そう、風。頭を撫でてくれんのー」


オレの言葉に、跡部は「あぁ、なるほど」って顔をした。

少し開いた窓からは先程から優しい風が吹いてきていて

オレの近くまで来た跡部も風に当たっている。


「風がねー、撫でてくれんのが気持ちよくって・・・・」


跡部に頭を撫でられてるみたいなんだよ。

オレは突っ伏したままそっと目を閉じる。

こうしていると本当に跡部に優しく頭を撫でられているように錯覚する。

オレの傍で立っている跡部が「はぁ」とため息をつくのが聞こえた。

そうしてふわりと。

本当に跡部がオレの頭の上に手をのせた。

跡部の綺麗な手が、そっと優しくオレの頭を撫でる。

錯覚でも何でもない、本物の跡部に触れられて、

オレはすごく嬉しくなって「ふふっ」と笑みを零してしまった。


「・・・・・部活、行くぞ」


跡部が頭を撫でながら、そっと呟いた。


「やだ」


「ジロー」


聞き分けのないオレの返事に跡部がため息をつく。

だって、まだこうしていたいんだもん。

跡部はきっと分かってないんだろうけど、

跡部がオレの傍に居てこうやって頭を撫でてくれるのが、オレは好きなんだよね。

起きるように催促する跡部の指が、ゆっくりとオレの髪に触れる。

こうされていると気持ちよくなって眠くなってくる・・・・・

これは昔からのオレの習性。


「・・・・・あとべ、眠くなってきちゃった」


「・・・・・甘えてんじゃねーよ」


「だって・・・・・・」


オレは目を開けて跡部を見上げた。


「だってもへちまもねぇ。部活に来ないんならもう知らねーからなっ」


そう言うや否や、オレを優しく撫でてくれていた跡部の指が「ふっ」と離れた。

そうして元来た道をツカツカと足早に歩いて教室のドアに手をかける。

跡部が行っちゃう・・・・・!!

オレは慌てて飛び起きた。


「待ってよ、あとべ!!オレも行くっ!!」


だから置いていかないでよ。

オレの慌て具合に、跡部は「ニヤリと笑みを浮かべた。


「・・・・・・最初っから素直に言えよな、ジロー」


跡部ともっと二人でまったりしていたかったけれど、ううん、実際部活なんてどーでもいいんだけれど

跡部が行っちゃうのは嫌だから、オレは仕方なく跡部と一緒に荷物を持って教室を後にした。



「ほんと、ジローは手間がかかるんだから・・・・」


そう言った跡部の横顔をちらりと見れば、「困った奴だ」と上機嫌に笑う跡部の姿。

好きなんだよね、その笑顔・・・・・

オレがそう思ってることは、悔しいからまだ秘密にしておこう。













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