何処に行くにも  何をするにも



一生懸命ついて来たキミ




そんな昔を思い出すだけで 幸せを感じるんだと



言ったらキミは  怒るだろうか













『習慣』









ジャージに着替えて軽くストレッチをして、「さぁ、部活だっ」て意気込んで来たってのに

あの目立つ泣き黒子ヤローが見当たらなかった。

テニスコートの隅から隅まで見渡してみたものの、

アイツの姿はそこにはなくて、オレは顔をしかめた。

跡部のヤツ・・・・・部長のくせにまだ来てねぇのかよ。・・・・もしかして部室か?

そう思ってふらりと部室に行こうとしたオレを、長太郎が呼び止めた。


「宍戸さーん、どうしたんですか?練習、しないんですか?」


オレに近付く長太郎を見上げながら、やっぱ身長高ぇよなぁ、コイツ・・・・なんて思った。

長太郎は二年生ながらも氷帝テニス部のレギュラーを務めるほど実力がある。

勿論オレだって、自慢するわけじゃねーけど氷帝テニス部のレギュラーだ。

オレは長太郎とダブルスを組んでいるからよく分かるけど、

コイツはかなりの実力者だと思ってたりもする。


「宍戸さん、部室なんて覗いて何やってんですか?」


長太郎が不思議そうな顔でオレを見つめる。

オレはただ一言「別に・・・・」と視線を逸らして返事を返した。

そんなオレの反応を見て、察しのいい長太郎はオレの考えに気付いたようで、


「部長ならいませんよ?」


さらりとそう言ってきた。

・・・・・なんでオレが知らねぇのに、コイツは知ってんだよ・・・・・


「・・・・何処行きやがった、あのヤローは」


「芥川先輩捜しに行くって言ってましたけど」


その一言に、オレは「はぁ」とため息をついた。


「・・・・・また、アイツか・・・・・」


いつ頃からだっただろうか、たぶんジローのヤツがテニス部に入って間もなくだと思うが

ジローは部活をちょくちょくサボるようになった。

面倒見のいい跡部は、その度にジローを捜しに行っては連れて戻って来ていたが、

ジローがレギュラーに選ばれるようになったら、そのサボり癖は更にひどくなった。

あんなんでもレギュラーに選ばれるんだから、

レギュラー落ちした奴らだって悔しいと思ってるんだろうな・・・・・・

まぁ、ジローはあれでもかなりテニスうまいから文句も言えないんだろうけど。



とにかく。

ジローがサボれば跡部が捜しに行く。

これはもう暗黙の了解というか、氷帝テニス部の習慣になっていた。

どうにも、ジローを見つけられるのが跡部以外にいないのも事実。

そんでもって、その度に深いため息をつくのがオレの日課になってしまっていた。

ジローのヤツ、ああ見えて結構したたかなんだよな。

部活サボるのだって「練習つまんないからヤダ」とか言ってっけど、

その割には跡部と一緒に部活に連れてこられたジローは機嫌がいいんだよ。

跡部だってもうテニス部部長なんだから、もっとビシバシ鍛えなきゃ駄目だろ。

だいたいにして、跡部がジローに甘いのが悪いんだよなー。

甘やかすから、アイツはいい気になって平気で部活をサボろうとするんだ。

・・・・・ったく。オレの苦労も考えないで。




・・・・・・・・ちょっと待て。



苦労って何だ、苦労って。

オレは別に苦労なんて・・・・・・



「宍戸さん、不機嫌顔になってますよー?」


長太郎に言われて「ハッ」とした。


「・・・・うっせーな。部活サボる奴の気が知れねーんだよ」


もーやめだやめだ。

アイツらのことなんて気にしても仕方ない。

長太郎に「外周走んぞっ」と言ってその場を去ろうとしたら、

タイミングよく向こうの方から跡部とジローが歩いて来るのが見えた。

ジローが上機嫌に跡部に何やら話しかけている。

・・・・・・遅刻してきやがったくせに、何ちんたら歩いてやがんだよ・・・・・・



ジローは跡部に促されるまま部室へと入っていった。

跡部は何事もなかったような顔で悠々とテニスコートへやって来る。

オレは何か一言言ってやろうと、アップを開始しようとしていた跡部に声をかけた。


「・・・・・遅かったじゃねーか、跡部」


「あぁ?」


何だよ、そのうざったそうな顔は。

ジローには笑顔のくせにっ!!

あームカつく。ほんとムカつく。この差は何だよ、この差はっ!!


怒りにまかせて反論してやろうとしたオレを、長太郎が遮った。


「部長が芥川先輩ばっかりかまうから、宍戸さんが機嫌損ねてるんですよ」




「 !!! 」




・・・・・・・・・・っな!!

何てこと言いやがるんだ、長太郎のヤツ!!!




「あーん?中三にもなってジローにヤキモチ妬いてんのか、お前」


跡部が小馬鹿にしたように笑って言った。

ヤヤヤヤヤヤヤヤキモチ!?

はぁ!!??

ヤキモチって何だよ!?なんでオレがヤキモチ妬くんだよ!!??


口をぽかんと開けたまま、何も言えないでいるオレの前で


「宍戸さんもそうですけど、オレだって部長にかまってもらいたいですよー」


はぁ!?

どさくさに紛れてお前何言ってんだよ、長太郎っ!!


長太郎の言葉に跡部が一瞬驚いて、けれどすぐに「ふっ」と優しい笑みを浮かべた。


「ったく、しょーがねーな。今日はオレ様がゲームの相手をしてやるよ」


「え!?本当ですか!?わー♪嬉しいなー♪」


跡部からの願ってもない申し出に、長太郎は断ることなく嬉しそうに返事を返す。



・・・・・・・・・・・ちょっと待て。

なんで長太郎が跡部とそんな楽しそうに会話してんだよ。

オレ、置いてけぼりじゃねーかっ!!

オレの存在を無視すんじゃねぇっ!!!



「おい、跡部っ!!長太郎とゲームすんならオレともしろっ!!」


「あぁ?二人も相手にできるかよ。ジローに頼めよ、ジローに」


・・・・・・・・・・っな!!

何だ、その態度の違いはっ!!!

長太郎の相手はしてやんのに、オレの相手はしたくねーってことか!?

・・・・・・・・・・もー駄目だ。

完っっっっっっ全!!!にアタマきたぞ。


「このえこ贔屓ヤロー!!部長のくせに贔屓してんなっ!!」


「はぁ?訳分かんねーよ、お前。何キレてんだよ」


「そりゃキレたくもなるだろーが!!だいたいお前はジローに甘過ぎんだよっ!!」


「宍戸さん、落ち着いて・・・・・」


長太郎が慌ててオレに静止の言葉をかける。

跡部は大袈裟なほどにため息をついた。


「鳳、このバカの相手頼んだ。オレはウォーミングアップしてくる」


「あ、はい」


「・・・・んだとー!?バカって誰だ!?オレのこと言ってんのか!?」


怒りを露わにするオレとは対照的に、跡部は冷めた様子でオレ達に背を向け走り出そうとする。

・・・・・・・・・・くっそー。

いつからコイツはこんな性格になっちまったんだ!!

昔はあんなに「りょうちゃん」とか言ってオレの後をくっついて来てたくせにっ。

あの可愛い跡部はどこに行っちまったんだよっ!!



・・・・・・・・・はぁ。

何かスッゲー虚しくなってきた・・・・・・・



「昔はあんなに可愛かったのに・・・・・・・・・・・・・」



「ポツリ」と呟いたオレの一言に、跡部の足が「ピタリ」と止まった。


「何処でも必死にくっついて来てた跡部は可愛かったよなー・・・・・・・」


半ばヤケクソになって、オレは嘆きにも似た非難の声を上げた。


「ちょっと、宍戸さんっ!!それ言っちゃ・・・・・・・」


長太郎が慌てて止めようとしたが、もう遅かった。



「・・・・・誰が・・・・・・・可愛いって・・・・・・・・?」



「跡部だよ、あ・と・べ!!小さい頃はそりゃもー犯罪的に可愛か・・・・・・・」


「ふざけんなっ!!それ以上言ったらぶっ殺す!!」


くるりと振り向いた跡部の顔は真っ赤だった。

跡部は昔話を持ち出されると、何故だか真っ赤になって滅茶苦茶怒る。

オレ達過去の話は、どうも跡部にとって「恥ずかしくて消してしまいたい思い出」らしい。

昔話になると、途端に形勢が逆転する。

オレはそれがすごく心地よかった。

結局何だかんだ言っても、跡部は跡部なのだ。

オレもジローも跡部が嫌がるのを承知で、昔話で跡部をからかうことがよくある。

跡部のプライドがそれを許さないのは重々承知でやるから、質は悪いだろうという自覚はあるが

こーゆー時でないと優越感に浸れないんだから、このぐらいの楽しみはあってもいいと思う。



突然に飛び出した過去の話に、跡部は遂にムキになってオレに突っかかってきた。


「昔話はすんなって言ってんだろーが!!」


「何ムキになってんだよ?オレは本当のこと言っただけだろ?」


「五月蝿ぇ、黙れ!!もう喋んなっ!!」


あらまー。耳まで赤くして怒ってらぁ。

そーゆー反応するから、からかいたくなるんだよなぁ・・・・・・

本人、無自覚なんだろうけど。


「“りょーちゃん”って呼んでたじゃねーか♪」


「っざけんな!!死ねっ!!!」


あーおもしれー♪これだからやめられねーんだよなー♪

上機嫌になったオレと赤っ恥を晒して真っ赤に怒る跡部のやりとりに、

いつのまにやら傍に来ていた忍足が割って入ってきた。


「えぇ加減にせーや、二人とも」


「「 !! 」」


「あ、忍足先輩・・・・・」


・・・・・・・また忍足のヤツかよ。

オレは「チッ」と短く舌打ちをした。

オレが昔話で跡部をからかうと、

何処からともなくやって来て跡部に助け舟を出すのが忍足だった。


「皆見てんで?はよ練習せんとアカンやろ」


さっきまで頭に血が上って大声を張り上げていた跡部が落ち着きを取り戻す。


「・・・・そうだったな。

 このバカのくだらねぇ挑発に乗ってやるほどオレ様は暇じゃなかった」


あ。このヤロー!!またバカって言いやがったな!?

跡部がオレと長太郎を「じっ」と見つめた。


「お前ら二人、今から外周20周走ってこい」


「え!?」


「はぁ!?」


オレと長太郎は驚いて跡部を見た。


「宍戸さんは分かりますけど、なんでオレまで!?」


長太郎が納得いかないといった感じで跡部に抗議する。


「ちょっと待てよ、長太郎!!オレだって納得いかねーっつの!!」


跡部が「ふっ」と冷笑する。


「オレ様をからかった罰と、バカの挑発を黙って見てた罰だ」


はぁ!?んだよ、それっ!!思いっきり私情じゃねーかっ!!

昔話されたこと、根に持ってんじゃねーよ!!

お前なー、心が狭いぞ、跡部!!


「そ、そんなぁ・・・・・」


長太郎が情けない声を上げた。


「部長命令だ。早く走ってこい」


・・・・・・・・くっそ。こんな時ばっかり部長面しやがって!!

後で覚えてろよ・・・・・・・・・


「・・・・・何か言ったか?」


跡部が「ジロリ」とオレを睨む。


「べ、別に・・・・。行くぞ、長太郎」


「・・・・・・・・はい」


これ以上外周の量を増やされても困るから、

オレはしぶしぶ長太郎を連れてテニスコートを去った。





忍足の横を通る時、

忍足のヤツが「ジロリ」と睨んだように見えたのは・・・・・・・・・・・・・

だぶん気のせいだろう。












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