難しいことほど魅力的だと興味を持つのは



決して オレだけではないはずだ













『習慣』









いつも通りの展開。

いつも通りの態度。


けれど。


徐々にではあるが、あの子の空間に長くいられるようになった。

これは進歩だ。


「侑士、跡部からかってたら後で大変なことになるぞ」


上機嫌に鼻歌でも歌い出しそうなオレへ、眉間にしわを寄せた岳人が言った。


「せやからからかってへんて、スキンシップ♪」


「・・・・・・からかってるだろ、絶対」


どこまでも調子の軽いオレの言葉を聞いて、岳人はため息をつく。


「監督にもあんまいい印象与えてないの、分かってるだろ?」


そんなこと、岳人に言われずとも分かっている。

ダブルスとシングルスのレギュラーではコートも練習メニューも全く違う。

オレはダブルスの人間や。シングルスの跡部と一緒におったら

「練習サボってやがるな」くらいの思いで観られてるんは百も承知。

そやかて、あの几帳面なお坊ちゃま。

跡部景吾がそんなことも気にしてるんが可愛いて可愛いてしゃーないんやもん。

オレのことを突っぱねるんも、実は監督がオレ達のこと見てるからや。

いや、監督のオレに対する印象が悪なるのを気にしている。

流石はテニス部部長。

部員のこと、考えてはるねんなぁって思ってまう。

それがオレであっても。

ほんま可愛い性格してるわ、跡部。

オレのことなんて最初は信用してへんかったのにね。

今ではあんなに近くにおるのに、警戒することを忘れてる時がある。

そこがまた天然さんで、可愛い。

オレの言葉に真っ赤になって反応するんも、めっちゃ可愛い。

強気な態度もほんまおもろい。からかい甲斐がある。

せやから、からかうことがやめられへんねん。


「端から見てて、あんまいい気分じゃない・・・・・・」


「ポツリ」と岳人が呟く。

オレは目を細めて岳人を見つめた。


「オレが跡部を相手してるからか?それとも・・・・・・」


オレはテニスラケットをくるりと回して



「跡部がオレを相手してるんが嫌なんか?」



岳人の眉がピクリと動いた。

あーほんまおもろい。

岳人も正直過ぎて、めっちゃ分かりやすいわ。


「べ、別にそう言うわけじゃ・・・・・」


「フイ」と顔を逸らすものの、顔色を見れば明らかだ。

オレは「ふっ」と笑って、


「なー。跡部っておもろいと思わん?」


「はぁ??」


「せやから。おもろいヤツやと思わん?」


こんなに部員から想われてんのに、全然気付いてへんトコロとか。


「・・・・・面白いなんて思ったことねーよ」


「ほんなら言い方変えるわ」


オレは「ニッ」と笑って言った。




「・・・・めっちゃ魅力的やと思わん?」




オレの言葉に、岳人はびっくりしたような顔でオレを見上げた。



テニスをしている時の跡部も。

勉強している時の跡部も。

うたた寝してる時の跡部も。

みんな綺麗で。とても白くて。汚れてなくて。

何者も寄せ付けないあの雰囲気。あの気品。


けれど。


決して誰のものにもならない跡部。

そこがめっちゃ魅力的。

そんでもって、手に入らんと思うほど手に入れたくなる。

人間は欲張りさんやからな。

けど、なかなか手に入れられへん。

そこが面白いねん。

どうやったら手に入るんやろうと思えば思うほど。


おもろくなる。



「・・・・・・侑士。お前、跡部のこと・・・・」


含みのある岳人の言い方で、察しのついたオレは苦笑した。


「ちゃうちゃう。そうやないって」


軽く手を振り、岳人の考えを直ぐに否定した。

オレは跡部に対して恋愛感情なんて持ち合わせてなどいない。

あんなワガママお姫様相手に本気になるほど、オレは飢えていない。

その自覚はちゃんとある。

そこが岳人やジローとオレの違うトコロ。


「ただおもろいと思てんねんて」


そう、単純に面白い。

何故なら。


これはゲームだから。



「侑士・・・・その、いちろう友達として忠告しておくけどさ・・・・・」


「んー?何?」


「跡部に手を出したら、マジで大変なことになるぞ」


大変なことになる?

ふーん。そりゃ余計におもろいやないか。

大変なことになるゲームの方が、平凡なゲームよりも万倍楽しめる。


「大変なことって例えば?」


「レ、レギュラーから外されるとか」


「へぇ。岳人にとっての大変なことって、レギュラー落ちなん?」


「あ、当たり前だろっ!!氷帝テニス部レギュラーなんだぞっ!!」


岳人も純粋なんやねぇ。

そのことに関しては、オレはあんまり興味あれへんねんけどなぁ。


「それに、跡部親衛隊にボコボコにされるぞ」


「あんなストーカーグループ怖ないで、オレ」


「ははっ」と笑いが漏れてしまった。

跡部親衛隊なんて、所詮ファンクラブみたいなもんやろ?

氷帝テニス部の持つオーラには絶対近づかれへん。

まぁ。オレが一般人やったら、話は別やろうけど・・・・。


「それに・・・・・・・」


「それに??」




「宍戸達が黙ってない」




・・・・・・ふーん。

何だかんだ言うて、岳人も鋭いやん。



別コートでは跡部のキレのあるサービスを打つ音が聞こえてくる。

どうやらジローと軽く打ち合いをしているようだ。

先程の展開を思い出して、オレは薄く笑った。


「ずっと傍におんのも、問題あるやんなー」


ジローも宍戸も可哀想に。

せやけど、白いまんま守られてきたあの子を奪うんは・・・・・・



「おい、侑士っ」


「何や?」


「とりあえず監督が白い目で睨んでくるから早く練習メニューこなしていこうぜ」


「・・・・・・おう」


岳人の慌てた声に、振り向けば。

「喋ってないで練習しろ」と言わんばかりの監督の顔。

オレは岳人の提案に賛成した。






監督を怒らせんのは、今はまだ得策じゃない。













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