ふわふわのふかふかは気持ちよくて



それはとっても幸せなんだけれど




キミが傍にいれば




もっと もっと



ボクは幸せ













『ふわふわのふかふか』









5時間目の授業は数学だった。

何となく。サボりたいなーって思っちゃって。


「腹痛いから保健室行ってくるー」


オレはクラスメイトにそう言って、

5時間目始まる直前でふらりと立ち上がり保健室に行くことにした。

あ。ホントに腹痛ってわけじゃないよ?勿論仮病ね。仮病。

いつもはね。勝手にふらぁって行っちゃうことの方が多いんだけど。

今日はちょっと場所を変えてみようと思ったんだ。


うーん・・・・サボる時の定番だよね、保健室って。

いつもは屋上の階段付近とかー。図書館とかー。中庭の木陰なんかもいい感じ。

うー・・・・・何かもー駄目。考えるのめんどくなっちゃったや。

とにかく。

今日の気分は保健室。ベッドもあるし。保健医は優Cーし。

眠いからちょうどいいC。



保健室に行ったら、案の定保健医は優しくしてくれて。

オレは真っ白いベッドにダイブ。

はー・・・・ふわふわのふかふかで幸せだー・・・・・。

ごろんと横になって真っ白い天井を見つめる。

今頃皆は数学の授業中かなー。

ベッドの感触が柔らかくって、もともとの眠気も重なって

オレはゆっくりと目を閉じた。

さぁ、たっぷり寝るぞ。



「おい、ジロー」


呼ばれて振り向けば、そこには跡部が立っていた。


「あれー?あとべ、具合悪いのー?」


もう少しで寝かけたオレの思考回路がクリアになる。

ベッドから起き上がらず、オレは一度「うーん」と伸びをして

目をパチパチさせて跡部を見つめた。

跡部特有の仕草で髪をかき上げ、こちらを見る彼の顔は何とも呆れた様子だ。


「いや、オレは絆創膏をもらいに来ただけだ。それよりも・・・・・」


「ばんそーこー?何?何?あとべ、どっか怪我したの!?」


跡部が怪我したなんて大変だ。

のらりくらりとしていたオレは慌てて飛び起きた。

そんなオレの動作に跡部は少し驚いた様子で、けれど直ぐに「フッ」と笑う。


「怪我ってほどでもねーよ。紙で指が切れただけだ」


「指が切れた!?」


わわっ。ますます大変だっ!

跡部の指が切れちゃったなんてっ!!

オレは直ぐにベッドから這い出して、跡部の傍まで駆け寄る。

「切れた」と言う跡部の人差し指には、すっと線が入ったように切れ目があった。

うわー・・・・痛そう・・・・・


「それより保健医はどうした?」


言われてようやくオレは保健室内を見渡した。

先ほどまでいた筈だった保健医の姿が見当たらない。

えー?どこ行っちゃったんだろ。気付かなかったCー。


「・・・・ったく。仕方ねぇな、勝手にするか」


跡部は一度深くため息をついてするりとオレの横を通り抜けようとした。

けど。

オレは跡部の腕をがっちり捕まえた。

跡部が眉を寄せて顔をしかめる。


「あーん?何だよ、ジロー」


「オレがやってあげる」


「は?いいって、こんなの自分ででき・・・・・っ!!」


跡部の手首を掴んで、オレは口元に持ってくる。


「おい、やめ・・・・・!!」



跡部の制止の声も聞こえないフリをして。




パクリと。




跡部の指を口に含んだ。




「・・・・・・っつ」


跡部の綺麗な指。

舌でゆっくりと舐めて。


「・・・・・・汚いからやめろよ・・・・・」


跡部の震える声が妙に心地よく響いてくる。

ちらりと跡部の表情を盗み見れば、頬を赤らめて視線を逸らしていた。

そんな跡部の様子にオレは何だか気分がよくなって、もっと丹念に舐め取ってあげる。

時折ちゅっと吸ってあげて。


「んっ・・・・・・・・・・・」


口の中にはほのかに血の味がする。

跡部の視線がオレを真っ直ぐ見ているのが分かった。

潤んだ綺麗な綺麗な丸い瞳で。

その無言のしぐささえもとっても心地よくて。

そうしてたっぷりと舐めてから跡部の指を解放してあげた。


「消毒完了♪」


オレは跡部ににっこりと上機嫌に笑いかける。

跡部は顔を真っ赤にしながら「プイ」と顔を逸らした。

文句も言わず。ただただ口をぎゅっとつぐんで。


何も言わないってことは。

そう。彼が観念した証拠。

オレの好きなようにしていいよっていう無言の了承。


オレはまたそれが嬉しくて、救急箱からホンモノの消毒液とばんそーこーを取り出す。

そしてそっと跡部の綺麗な指の傷を手当てした。

くるりと指に巻いてあげて。

手当てが完了したら、跡部の指がそっとオレから離れた。


「・・・・・・さんきゅ」


ぶっきらぼうに呟いた跡部。


「どーいたしまして♪」


救急箱を片付けながら、オレは照れる跡部ににこにこする。

照れる跡部も可愛くって好きだなーなんて思いながら。



「それじゃ、オレはもう行くぜ」


え?行っちゃうの??


ふらりと向きを変えてドアから出て行こうとする跡部を何とか留まらせたくって、

オレは慌てて跡部の腕にひしっとしがみ付いた。


「オレの看病してよ、あとべっ」


「あーん?看病って・・・・どうせ、仮病だろーが」


大正解。

うーん・・・・やっぱり見破られてたか。

だけどオレは必死に跡部にしがみついてぐいぐいと腕を引っ張った。


「寂Cーんだってば。いいじゃん、一緒にいてよー」


「仮病なら教室に帰れ。授業サボるなって、毎回言ってんだろ?赤点になるぞ」


うぅ。ごもっとも。

痛いトコロを突かれて、オレはしょんぼりと肩を落としつつ跡部の腕を放した。

あーあ。残念。

折角跡部とのんびり一緒にいられると思ったのに。

だけど跡部は出て行かない。そのままオレの前に突っ立ったまま。

オレは首を傾げて跡部を見上げた。


「・・・・・・行かないの?」


遠慮がちにそう聞いてみれば。


「・・・・・・行ってほしいのかよ?」


そんな彼らしい返事が返ってきて。


オレはパッと顔を輝かせて跡部に抱きついた。


「わーい♪あとべ大好きー♪」


「〜〜〜〜・・・・・手当ての借りがあるからな」


「仕方なくだぞ」と言いながら優しく微笑む跡部。

昔からそう。

跡部はいっつもオレに甘いんだ。

オレもそれをよく分かってるつもり。だからめいっぱい甘えるんだ、跡部に。

こうやって跡部に許されるのがオレだけなんだって。

実感したいから。


跡部がぽんぽんとオレの頭に手を置いて、オレに笑いかける。

オレも「えへへ」と笑い返して、跡部の手をとる。

そうして跡部を保健室のベッドのところまで引っ張った。


「・・・・・・まさか、寝るんじゃねーだろーな?」


大正解。

跡部は勘がいいねー♪


「あ、おいっ。ちょっと待て!!」


「んしょんしょ」とベッドの布団に潜り込んだオレは、

続いて跡部の腕を引っ張って同じように布団の中に入るように催促した。


「オレは寝ねーぞ。ジロー、引っ張んなっ」


「なんでー?一緒に寝ようよー」


慌ててオレから離れようとする跡部の腕を、放すまいとオレもぎゅむっと掴む。


「寝ないっつってんだろ」


「なんでー?昔はよく一緒に寝たじゃんかー」


跡部の頬の赤みが一気に増す。


「んなっ!!そりゃ小さい頃の話でだな、もう今はそんな歳じゃねーだろーがっ!」


「一緒だよー?何も変わってないじゃん、昔とー」


そうだよ。

昔だって。今だって。

何にも変わってない。

オレを甘やかす跡部も。跡部に甘えるオレも。




それから。




オレの跡部に対するトクベツな感情も。




そんなオレの気持ちに気付かない跡部の鈍感さも。





何も変わってはいないんだ。

何も。



ようやく跡部が白旗を掲げた。

オレとの言い合いで跡部が勝ったことなんて今までにないんだCー。

今回はちょっとというか、かなり渋ったけどね。


抵抗する力を弱くして、跡部がオレをちらりと睨む。

それから、大袈裟なほどにため息をついてから


「今回だけだぞ。今回だけ。今回だけはトクベツだからなっ」


そんなに何度も念押しされてもなぁ・・・・

真っ赤になって言う跡部に、オレはちょっと苦笑する。

しぶしぶといった形で跡部も同じベッドに入ってくる。

う・・・・・せ、狭いかも。


「あとべ、ちょっと狭いね」


「当たり前だろーが。シングルベッドに男二人だぞ?狭いに決まってる」


オレに背を向け、逆方向を向いている跡部。

同じベッドに横になって。同じ布団の中に入って。

ほら。昔と変わらないじゃん。

ちょっと違うのは、跡部が背中を向けてるってコトだけ。


「ねー。こっち向いてよー」


「〜〜〜〜・・・・・ったく。向くよ。向けばいいんだろ?」


猫なで声で声をかければ、ほら。跡部から不機嫌な声。

跡部がくるりと向きをかえる。

視線がぶつかった。

視線が絡まるのに耐えられなくなった跡部が目を閉じる。

オレはくすくすと小さく笑って、跡部の首元に腕を回した。


「おい、ジロー・・・・・・・」


跡部から不満の声があがる。


「くっついたら狭くないよ?ね?」


優しく跡部の耳元で囁いたら、跡部はもうそれ以上文句を言わなくなった。

これ以上何を言っても無駄だと悟ったのかもしれない。

ガクシュウノウリョクって大切だよね。うん。


密着させた跡部からじわじわと体温が伝わってくる。

トクトクと脈打つ心音。

赤ちゃんがお母さんの心音で落ち着くって話。あれってホントだろうなぁ。

オレも跡部の心音で何だか落ち着いてきたC。


「・・・・・・あとべの匂いがする・・・・・」


嗅ぎ慣れた跡部の匂い。

ほんのり甘い感じがするんだよ。


「・・・・・・・・・何だか眠くなってきた・・・・・・」


とろんと瞼が重くなっていく。

ふわふわでふかふかのベッド。

それだけでも全然眠気を誘うというのに。


「・・・・・・いつも眠いんだろーが」


跡部の悪態も何だか子守唄に聞こえてきた。



傍に跡部が居てくれるのがこんなにも嬉しいだなんて。



「・・・・・・・あとべー・・・・・・・すき・・・・・・」



ねぇ、聞こえてる?



「・・・・・・・分かったから、早く寝ろ」



オレの頭を優しく撫でる跡部。

今はもうこれだけでじゅうぶん満足だよ。

おやすみ、あとべ・・・・・・・・








それから一時間も眠らない内に。

部活時間だと、跡部の手によってオレは叩き起こされてしまった。

う〜〜〜・・・・・流石は部長。

しっかりしてるんだよね、そういうトコロは。













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