こっちを向いてくれないかな

こっちを向いてくれないかな


宝石みたいなキラキラした目で

こっちを観てくれないかな


目を細めて優しく微笑みながら

こっちを観てくれないかな


「バーカ」って困ったように笑って言ってくれないかな



いっぱい  いっぱい

キミに甘えてぎゅってしたいから



だから



ねぇ



こっちを向いて?













『宣戦布告』









初めて跡部に会ったのは幼稚園児の時だった。

「入学おめでとう」って言われて手渡されたピンク色のリボンの花飾りを胸に安全ピンで止められて

騒がしいすみれ組の教室にワクワクしながら入った。

どんな子がいるのかなって、ワクワク気分で室内を覗いた。

いっぱいいる自分と同じ子供の中で一人キョロキョロと困ったように

誰に話しかけたらいいのか途方に暮れた感じの子がいて、自然とオレの目に入った。

それが跡部だった。

陽の光を反射している綺麗な髪。

窓から差し込む太陽の光を背に受けて立つその子供。

オレは不思議とその子から目が外せなくなってしまっていた。

光に溶け込むように立つその子を見つめて、瞬間オレは息を飲んだ。



その時、その子の背中に光の羽が見えたんだ。



びっくりして目をこすってもう一度その子を見たら、でも羽はもうなくなっていて。

オレはもうびっくりして、ワクワクして、スゲーって思って、ドキドキして。

オレの視線の先のその子供は、誰にも話しかけられずに窓の側に立って手をモジモジさせながら俯く。

オレは騒ぐ子供の波をかき分けて。

気付いたらその子供の前に来ていた。

オレと同じピンク色のリボンの花飾りを胸につけた子供。

オレと同じすみれ組の子供。

色素の薄い髪は細くてとっても柔らかそうだった。

うつむいたままでオレが側に立っていることに気付いていない様子のこの子。

どうしよかなんて迷わなかった。


目が見たいな。

声が聞きたいな。


それだけだった。


「ねぇ、ねぇ」


気付いたらオレから声をかけていた。


「僕ね、ジローって言うの」


ねぇ、こっち向いてよ。顔をあげて?


「キミは何てゆーの?」


オレの声に反応して、跡部が顔をゆっくりとあげた。

そうして、お互いに初めて真正面から見つめ合った。

初めて見た跡部の顔は、眉を八の字にして泣き出しそうなくらい目にいっぱいの涙を溜めていて。

そんな跡部のおっきな目が涙でキラキラ光ってて、それで窓からの光が髪までキラキラさせていて。

その様子を見てたら、さっき見えたあの羽は嘘なんかじゃないって。

子供ながらに変に自信を持ってしまったのを覚えてる。


「・・・・・けーご。僕、けーご」


震えるような柔らかい声。

初めて聞いた跡部の声は、予想以上に綺麗だなんて思った。

オレはにっこりと笑いかけて


「もう大丈夫だよ」


オレが傍にいてあげるから。

だからそんな寂しそうな顔をしないで。


「泣いちゃ駄目だよ、けーご」


そっと手を伸ばして初めて触れた跡部の髪は本当に柔らかくって。

オレは何度も何度も頭を撫でてあげた。


ほら、もう寂しくないでしょ?


にこにこしているオレの顔をじっと見つめていた跡部は、

けれど唇を振るわせて結局泣き出してしまった。

オレは慌てて「ぎゅっ」て抱きしめ背中と頭を撫でて「いい子、いい子」をしてあげた。

肩をひくつかせて泣きじゃくるあとべをなだめて。

何度も「大丈夫だよ」って言ってあげた。

たぶん、緊張してたんだよね。知らない子ばっかりで、どうしたらいいか分からなくって。

でも、もう平気だよ。オレが傍にいてあげるから。


だから。



だからね・・・・・・







「こら、ジロー」


「痛っ」


「ぽかり」と頭を叩かれ重い鈍痛を感じたオレは、とろんとしている瞼を少しだけ開けて身をよじった。


「お前、補習中に寝るな」


声の方へ顔を向ける。


「あっ。あとべ」


まだまだ夢から覚めていない状態のオレは、それでも見知った顔を見つけて咄嗟に言っていた。


「何が“あっ。あとべ”だっ!!寝てんじゃねぇっ!!」


憤激した跡部はまたしても、オレの頭めがけて丸めた教科書を降り下ろしてくる。


「痛っ」


覚醒し切れていないオレは避けることもままならずそのまま食らう。


「だいたい教えてくれって言ったのはお前だろーが。なのに寝るってどーゆーつもりだっ!!」


跡部の怒声が響いた。

・・・・あれ?なんで怒られてんだ?えっとー・・・・

徐々に思考回路がクリアになってくる。


「あ。そっか!オレ、あとべに勉強教わってたんだっけ」


そうだったのだ。

オレは跡部と同じクラスなんだけど(あとべは勿論クラス委員長もやってる)

先日行われた数学の小テストで、オレはとんでもない点数を取ってしまった。

・・・・まぁ、いわゆる赤点てヤツね。

オレは取り慣れてるからまーいっかーみたいな感じだったんだけど、

「今回の赤点者は再テストを行う」って先生から言われて、流石にヤバイと思った。

それと同時に、跡部ならこんなオレを救ってくれるとも思った。

返された小テストを手に、早速オレはいつもの如く跡部に泣きついた。

最初は「うざい」って冷たくあしらわれてたけど、

あまりにもひどいオレの点数を見て、再テストを落とせば部活にも響くと思ってくれた様子の跡部は

「仕方ねぇな」って、結局いつもの呆れ笑いで補習のコーチを承諾してくれたのだ。





部活もそこそこに(おっしーやりょーちゃんや・・・・何か他の部員にもグチグチ言われたけど)

そのまんま跡部の家にお邪魔することにした。

部員達の大ブーイングは跡部の一括で黙らせて。

だいたい最近感じ悪いんだ。特におっしー。

オレ、正直最近のおっしーは嫌。

だって・・・・・


だって、オレから跡部を取ろうとしてるんだもん。


持っていこーとするんだもん。



「おい、ジロー。ぼけっとすんな」


跡部の声で「ハッ」と我に返った。

広々とした跡部の自室。(まぁ小さい頃から見慣れてるけどね)

微かに香ってくるのは、跡部お気に入りのー…えぇと。何とかって名前の紅茶。

大きな窓からは跡部の家ご自慢の庭が見えていた。

わー、いつのまにか真っ暗だC。

オレはこ綺麗なテーブルから身を起こして一度大きく伸びをしてから

向かいに座る跡部ににっこりと笑いかけた。


「・・・・・だからこの場合の連立方程式の仕方はだな・・・・って、おい。聞いてんのか、ジロー」


オレの前で綺麗な色素の薄い髪が揺れた。


「ねー、あとべ」


「なんだ。分かんねートコあんのか?」


跡部が身を乗り出してオレの書きかけのノートを覗き込む。


「今日泊まっていってもいい?」


跡部の動きが止まった。そうしてチラリと見上げてきた。


「帰れっつったら帰んのか、お前」


「・・・・・あとべ、オレに帰れって言うの?」


「捨てないで」って顔で跡部を見つめたら、あとべがため息をついた。


「・・・・・こんな時間にお前を一人で帰すなんてするかよ。バーカ」


跡部から返ってきた言葉。その言葉の意味はつまり。

泊まっていっていいってことだよね?


「わーいvvあとべ大好きーvv」


勢いよく目の前の跡部に抱きついた。

跡部がオレに甘いのは昔っから。

「帰れ」と言われないことなんて、初めっから分かっていた。

・・・・・・そのへん、結構計算してるんだよねー、オレ。えへへ。

跡部が困ったように、けれど甘やかすように頭を「ぽんぽん」と撫でてきた。


「そうとなれば、今日はこの問題集のこのページまでは徹底的に教え込んでやるからな」


そう言って抱きつくオレに、跡部は問題集のとある部分を指差してオレに見せてきた。


「えーやだー。もう頭痛くなってきたCー」


「嘘付け。寝てただけじゃねーかっ。遅れを取り戻すための補習コーチだろ?」


うぅ・・・・・跡部って本当真面目ちゃんだよねー。

流石はテニス部部長兼クラス委員長。

補習コーチなんて。

そんなの口実に決まってるのに・・・・・

そう思ったけど、オレは口に出さなかった。

ただ、跡部の家にお泊まりしたかっただけなんて。

そんなこと言ったら、それこそ「帰れ」って言われそうだC。

跡部の首に巻きつけたオレの腕を器用に剥がしながら、跡部はため息をつく。


「そもそも人ん家来てぐーすかぐーすか寝んじゃねーよ」


「だって、気持ちEーんだもん」


跡部の匂いがいっぱいするんだもん。

眠くなってくるんだもん。しょーがないじゃん、そんなの。

跡部は「ホント仕方ねぇヤツだな、ジローは」とか言って、立ち上がった。

一瞬不安が胸を過ぎる。


「どこ行くの?」


体が勝手に動いて、オレは跡部のシャツの袖を掴んでいた。

跡部がオレを見下ろして「別にどこも行かねーよ」とため息混じりに言った。


「お前、軽い夕食くらい食べるだろ?何か持ってきてもらおうとしただけだ」


「夕食??」


部屋の壁に掛けられた大時計に視線を向ける。確かに時計の針は20時を回っていた。

17時には跡部の家に来ていたわけだから・・・・・うーん。結構な時間眠ってたんだ。


「爺に何か用意させるから待ってろ」


跡部は軽く言いいながらそっとオレの手を外して、静かに部屋から退出していってしまった。

広い跡部の部屋にぽつりと座るオレ。


「・・・・・・・・昔はあとべの方が寂しがり屋だったのにな」


今はオレの方が淋しがってる。

跡部と片時も離れたくないって思ってしまっている。

寂しくないよって。

そう言って抱きしめてあげたのは、オレの方だったのに。


「・・・・・・いつから、立場が逆転しちゃったのかな・・・・・」


ポツリと呟いたら、一緒に小さく笑いも漏れた。

オレが傍に居てあげるって言ってたはずなのに。

なのになんでかな・・・・・・・


なんで・・・・・・・・・・



知らず唇を噛み締めていた。

つい3日ほど前に見たあの光景が頭に浮かんだ。

忍足が跡部を抱き寄せるあの光景を。

それを享受してしまっている跡部の姿を。


「・・・・・・駄目だよ、あとべ」


そんなの駄目だよ。

跡部の、あの安心できる半径1メートルの空間に入れるのは。

それを許されていいのは、忍足じゃない。


「・・・・・忘れちゃったのかな、あとべは」


初めて会ったあの日の約束。オレと跡部の大事な、大事な約束。

オレだけがずっとずっと覚えているのだろうか。

オレだけが・・・・・・・


「・・・・・・たとえそうでも、おっしーに許しちゃ駄目だよ」


それだけは許せない。譲れない。

忍足だけには。



幼馴染って変な意地を持っちゃうのかな。

そう考えたら何だか情けないなーって笑ってしまった。











こっちを向いてくれないかな

ボクだけに振り向いてくれないかな

ボクだけに飛び切りの笑顔を見せてくれないかな



今もまだボクは祈ってる













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