『宣戦布告』











目覚ましの音に手を伸ばして自然と瞼が開く。

朝起きて、直ぐに後悔してしまった。


「あぁ、くっそ・・・・・オレ様としたことが・・・・・・・」


携帯を見てから寝るんだった。

ジローのヤツがベタベタと甘えてきて寝てしまったものだから

つい携帯画面をチェックするのを疎かにしてしまった。

しかもよりによって。アイツからの着信。


「〜〜〜〜〜・・・・・・・ったく。なんだって電話なんかしてきやがるんだよっ」


これじゃあオレがシカトしちまったみてーじゃねぇの。

すっげぇ感じ悪ぃ。そんなつもりじゃなかったのに・・・・・。

自分の携帯のディスプレイを眺めながら、オレは深い深いため息が漏れた。

カーテンの閉まったオレの部屋。

オレ様専用の大きな特注のシングルベッドにはオレとジローの二人が寝てもまだ余裕がある。

ベッドからすっと起き上がって、さてどうしたものかと考え込んだ。


「・・・・だいたい、いつもは電話なんかしてこねーくせに・・・・・」


一体どんな用事があったというのだろうか。

着信履歴に残る珍しいヤツの名前。

電話なんてよっぽどのことが無い限りしてこないアイツ。


「・・・・・・くそ・・・・・何だよ?悩みか?あぁ、もうっ」


朝っぱらからなんでオレ様があんなヤツの為に悩まなきゃなんねーんだよっ。

気分悪ぃ。あーもー。ホント気分悪ぃ。

そうは思ってもシカトしたまんまに出来ないのが部長としてのオレの性格なわけで。


「・・・・・っち。忍足のヤツ、覚えてろよ・・・・・」


朝早くにオレから忍足へ電話をするのも気が引ける・・・・・・・

仕方ない。学校に着いたら電話の用件を聞こう。

携帯を鞄の中に戻して、オレはオレのベッドで眠りこけているジローへと目をやった。


「おい、ジロー。朝だぞ」


「・・・・・・・・・・・・・・」


ジローは「ピクリ」とも動かない。

・・・・・しまった。

コイツ、寝たらそんな簡単に起きないんだった。

特にオレの家に泊まった時なんかは・・・・・。

今更な事実にようやく気付いたオレは、本日二回目のため息。

くそ・・・・・・どうやって起こしてやろう・・・・・・?


「ジロー。起きろって。朝練の時間だろーが」


とは言っても。

ジローのヤツは朝練に顔は出さないけれど・・・・・・。

すよすよと幸せそうな寝息を立てているジロー。


「おい、ジロー」


呼びかけてみたものの、やはり返答無し。

困った。部長のオレが朝練に遅れるわけにはいかない。

かと言って、ジローがそう簡単にすんなりとは起きてくれないのも分かっている。

叩き起こしてやろうかとも思ったが、その幸せそうな寝顔を見て何とも忍びない気分になった。

このままジローが起きるのを待っていたら確実に朝練には遅れる。つーか出られない。

どうしようか。

暫く考え込んで浮かんだのはアイツのこと。


「・・・・・・・・宍戸に迎えに来させるか」


そうだ。それがいい。

アイツならオレの家も知っているし、ジローの性格だって把握している。


「昨日もさんざん文句言って突っかかってきやがったしな」


ジローのことは、アイツに面倒を見させよう。

こうゆう時は使えるじゃねーの、宍戸のヤツは。

オレはもう一度鞄の中から携帯を取り出し、宍戸の番号をさっさとプッシュ。

朝早くからオレ様直々に電話してやってるんだ。有難く思えよ、宍戸。

無機質なコールが何度か鳴り響いた後、宍戸は重たい声でオレ様の電話に出やがった。


“あ〜・・・・・もしもしぃ?”


「オレだ。宍戸、お前直ぐに着替えてオレ様の家に来い」


ぱっぱと用件を伝えるオレの言葉を理解していない様子の宍戸。


“オレって・・・・・誰だよ?・・・・・・跡部か?”


あぁ、くそっ。寝起きかよ、コイツ。

宍戸の反応の鈍さに少しイライラが募る。


「あぁ、そうだよ。声聞いたら分かんだろ?あーん?」


“何なんだよ、朝っぱらから・・・・・・・”


・・・・・・・・。

てっめー、宍戸。

オレ様がわざわざ電話してやってるってのに、何だその態度はっ。

つーか、最初に用件話してやっただろーが。聞いてなかったのかよっ!


「ジローを迎えにオレ様の家に来い」


“・・・・・・・・・・・・は?”


イラッ。


「何度も言わせるな。ジローが寝てて起きないからお前に後を頼んでんだろーが」


“・・・・・・・はぁ?何だよ、それ。んなこと知るかよ”


宍戸の呆れたような声が聞こえてくる。

呆れたいのはオレの方だ。

何度も用件を言わせやがって・・・・・・一回で聞き取れってんだよ、このバカが!!


「オレ様はこれから朝練がある。いいか?ジローのことは任せたからな」


“はぁ!?勝手に押し付けんなよっ!んなもん、叩き起こしゃいいだろーがよー!”


あぁ、くそ。宍戸のくせに正論言いやがって・・・・・!!


「五月蝿ぇ、口答えするなっ!いいな!?今すぐにだぞっ!!分かったな!?」


“おい、ちょっ「ブツッ」


宍戸の言い分を聞く前に電話を切ってやった。

直ぐに掛けなおしてきやがるのを防ぐため、携帯の電源はすぐさまオフへ。


「・・・・・よしっ。ジローのことは宍戸に任せて、オレは朝練だな」


ベッドの方では未だ熟睡中のジロー。

・・・・・宍戸のヤツ、ちゃんと起こしてジローを学校に連れてくるだろうな?

一瞬心配が過ぎったが、そうも言ってられない。

時計の針は刻々と時間を知らせている。


「宍戸と無駄話してたから余計に時間がかかっちまったぜ」


アイツは全く。ホントにバカだな。話が通じねーからムカつく。

なんでオレ様はあんなヤツと幼馴染なんだか・・・・・・・


「おい、ジロー」


「ん〜・・・・・・・・・」


「オレは今から朝練に行くからな。お前、ちゃんと宍戸と一緒に学校来るんだぞ?」


何の断りも無く居なくなるのは気が引けたオレは、夢の中にいるんだとは知りつつもそう静かに言ってやった。

それから手早く身支度を済ませてぐっすりと眠っているジローを起こさないように、

そっと部屋のドアを閉めて退出していった。

廊下ではモーニングティーと朝食を運ぼうとしている爺の姿が。


「おはようございます。坊ちゃま」


「ん、あぁ、おはよう」


「坊ちゃま。もうお出かけになられるのですか?」


「あぁ。今日は早めに学校へ行く」


「お紅茶はいかが致しますか?」と言って爺はオレの前にティーポッドを差し出してくる。

優雅に朝を迎えるのがオレの常なのだが。

今日はそうもしていられない。

なにせ忍足からの電話の件がある。

アイツなら朝練にきっと顔を出しているだろうから、朝練の最中にでも話を聞いてやろうと思っていた。


「・・・・・・今日は車の中で頂こう」


「かしこまりました」


爺は深くお辞儀をして運びかけた朝食セット共々引き返す。


「あ。そうだ。爺」


「はい?」


オレの呼びかけにゆっくりと顔を向ける爺。


「ジローと・・・・・・それから宍戸の分の朝食を用意してやってくれ」


「宍戸様の分も、でございますか?」


「・・・・・・・・あぁ」


アイツ。

電話ではガンガンに文句言ってたが、きっと着替えて直ぐにでも来る。

ちゃんとした朝食も食べずに。

なんてったって、宍戸だからな。

そのへん、長年無駄に幼馴染やってるオレ様には検討がつく。

ジローのことならず、きちんと宍戸のことまでも考えてやっているオレは、何と心の優しい人間なのだろうか。

なのに。

宍戸のヤツは「えこ贔屓ヤロー」だとか「ジローに甘過ぎんだよ!!」なんてことを抜かしやがる。

誰がいつジローだけを贔屓してるってんだ。全く失礼なっ。

オレはいつだって公平に物事見極めてんだよ。バーカ。

テニス部部長だしな。そんでもって・・・・・・・・・いちおう幼馴染だしな。


「食事バランスも考えてくれよ。テニスプレイヤーは体が基本だからな」


流石に朝食抜きになんてさせるわけにはいかない。

そのせいで宍戸の体調が崩れてしまうのも、何となく癪だから。


「それから。二人をちゃんと学校まで送迎してくれ」


「かしこまりました」


オレはそれだけ言って、さっさと玄関ロビーへと足を運んだ。













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