『想うだけ』
好きだとか。嫌いだとか。好きじゃないとか。嫌いじゃないとか。
そんなことを一番初めに考え始めたのは誰なんだろう?
遠くで笑うあの子の綺麗な声。
金色の髪が右に行ったり左に行ったり。
そうかと思えば急に走り出したり。
だけど。
その横にいるのは、オレじゃあなくって。
オレはもっとずっと後ろで眺めてるだけで。
好きだとか。嫌いだとか。好きじゃないとか。嫌いじゃないとか。
そんなことを考えて一体何になるんだろう?
「キバ!アンタ、またかるめ焼きにしたのぉ?」
オレの右手に握り締められているお菓子袋を目ざとく見つめて、いのは渋い顔をする。
いいじゃねーか。オレが何を買っても。食べても。
「だってよー。これ美味いんだぜーっ」
「そんな甘そうなのが好きなの?アンタ」
「好きで悪かったな。いのは好きじゃねーの?」
「・・・・・・・まぁ、嫌いじゃないわね」
好きだとか。嫌いだとか。好きじゃないとか。嫌いじゃないとか。
どうしていつもいつでも簡単に言えないのだろうか。
簡単に言えたら楽になれるのだろうか。
袋から一つかるめ焼きを取り出して、オレは少しだけかじってみる。
甘く焦げた砂糖の味。しゃくしゃくとする食感。舌で転がせばゆっくりととろけていく。
よっぽどオレが美味そうに食べていたのだろうか、
いのはむむっと眉をひそめて隣に立つシカマルへと顔を向ける。
「シカマル!ちょっとだけ私もあれ食べたいっ」
「はぁ?」
「ダイエットするって言ってなかったか、お前」とシカマルは冷たい視線をいのへ送る。
いのはぐっと言葉に詰まって、それでも食べたいという意思表示をする。
「一口くらいじゃ太らないわよーっ!失礼ねっ!!」
「あーそうかよ」と、もうどうでもいいやな状態のシカマルの態度にいのは顔をムッとさせた。
口に残る甘い砂糖。
溶けてなくなっても残る後味。
「その駄菓子、私にもちょーだいっ」
遂にいのがオレに走り寄ってきて、勝手に袋へと手を伸ばしてきた。
「あ、おいっ!いの、てめー!!勝手に取るんじゃねーっつの!!」
慌てるオレの前で、いのはひらりとオレの手を交わして袋の中に手を入れる。
そうして一つつまみ出したかるめ焼きをぱくりと手早く口に放り込んだ。
「あー!!コイツ、勝手に食いやがった!!」
驚愕するオレとは対照的に、いのは「はい、コレ」とシカマルにオレのお菓子袋を渡してしまう。
「うおーい!!待て待て!!なんでシカマルに渡してやがんだよっ!?オレ様のだろーがっ!!」
「んー甘ーい♪たまにはかるめ焼きも美味しいじゃな〜い♪」
そういう感想を聞きたいんじゃねーんだよ、オレは!!
勝手に食うだけ食って、礼の一つもないのか、こいつ・・・・・っ!!
怒りを沸々と煮えたぎらせていくオレに、シカマルは「はぁ」とため息をついてお菓子袋を返してきた。
「オレの好物を〜〜〜〜っ!!てめー、いの!!返せっ!!」
ぴょんぴょんと身軽に避けて走っていくいのをオレも意地になって追いかける。
「何よー?心狭いわねー、男のくせにっ」
「うっせー!オレの好きなお菓子勝手に食って、礼も言えねーのか、てめーはっ!」
「あーハイハイ。ありがとねー」
あまりにも心の篭っていないいのの返事にますます怒りが込み上げてくる。
「何だ、その言い方!!喧嘩売ってやがんな、お前!!」
「あーもーうっさいわねー!!シカマル、この五月蝿い馬鹿犬何とかしてっ」
「馬鹿犬!?言いやがったな、このワガママでしゃばり!!シカマル、なってねーぞ教育がっ!!」
オレといのの方々から言葉を投げつけられて、
シカマルは「めんどくせー」と呟きながらため息をついて項垂れた。
オレとシカマルを残して、いつのまにかいのは遥か遠くまで駆けていた。
そうして振り返っていのは「にこり」と微笑む。
「明日、キバにクッキーでも焼いて持ってきてあげるわー」
いのの思いつきな発言。
けれどその内容にオレの心はドキリと大きく高鳴る。
好きだとか。嫌いだとか。好きじゃないとか。嫌いじゃないとか。
どうして・・・・・・・・・・・・・・
「かるめ焼きが好きなら、クッキーだって好きでしょ、アンタ」
「・・・・・・・・お、おう、まぁ。でも、なんで急に・・・・・」
少し戸惑うような声をあげるオレに向かって、いのは「ふふふ♪」と笑う。
「あたし、今お菓子作りに凝ってるのよー。だからー」
・・・・・・・何だよ。オレは試験品の処理をするのか。
ほんの少しだけ落胆するオレ。
いのが無駄にお菓子作りをしているわけじゃないことは分かっている。
誰の為に作っているのかも分かっている。
いのはそれだけ言うと、鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌でくるりと前を向いて歩き出した。
そんないのの後ろ姿をシカマルと一緒になって見つめて。
「・・・・・・・・なぁ、シカマル」
「あー?」
「好きだとか、嫌いだとか、好きじゃないとか、嫌いじゃないとか・・・・・・面白いよな」
「は?」
隣でシカマルが目をパチクリさせてオレの顔を見つめる。
「何を言い出すんだ、急に」と言いたそうな顔を向けて。
オレは少しだけ笑って、また袋から一つかるめ焼きを取り出して勢いよく口に投げ込んだ。
崩れるように溶けていくかるめ焼き。口いっぱいに広がる甘い甘い砂糖。
好きだとか、好きじゃないとか、嫌いだとか、嫌いじゃないとか。
おれはただ想うだけ。
そう想うだけ。
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