『言えなかった言葉』
アカデミーの教室。
私の大好きな彼はいつも同じ場所に座ってて。
だから私もいつのまにか定位置が決まっちゃってて。
それは彼の少し後ろの席で。
彼のせわしなく動く金の髪と楽しそうな声を聞いて幸せに浸るの。
だけど、彼のもっと前の席には。
綺麗な桃色の・・・・・・・可愛い女の子の姿。
「ヒナタってば、いっつも後ろの席だよなー」
ナルト君の声に胸がドキッとする。
「ナ、ナルト君はいつも前の方だよね」
控えめに笑った私に、ナルト君は「勿論だってばよ!」と元気がいい。
「だってだってだって。サクラちゃんが前の席に座るんだってばよ!!」
サクラ・・・・・・・・・・ちゃん・・・・・・・・・・・・・
「オレってば。これでもサクラちゃんにはアタックしまくってるからさー♪」
「えへへ」と照れ笑いを浮かべるナルト君に、私は返事ができない。
知ってる。
ナルト君がサクラちゃんを好きなことは。
じゃなかったら、授業の嫌いなナルト君が前の席になんて座らないよね。
毎日のように眺めている光景だから。
否応なしに視界に入る、金色と桃色。
その度に胸がじくじくと痛みを訴える。
「で。なんでヒナタはいっつも後ろの席なんだってばよ?」
核心を突かれるような質問に、私の肩は「ピクリ」と揺れる。
ナルト君から注がれる好奇の眼差し。
私は言葉に詰まる。
「ええと・・・・・・・・・・その・・・・・・・・・・・・・」
言ってしまえば胸が痛むことはなくなるのかしら。
この気持ちを伝えてしまえば、私は貴方の傍にいられるのかしら。
「それは・・・・・・・・・・・・・」
ナルト君はマジマジと私を見つめる。
俯くことしか出来ない私の返答を根気強く待ちながら。
「私は・・・・・・・・・・・・・・」
「もしかして。ヒナタも授業キライだってばよ??」
「・・・・・・・・・・え」
ふとナルト君の漏らした言葉に、私は顔を上げて彼の顔を真正面から見つめた。
「後ろの方だったらイルカ先生にも指される心配ないしなー」
「あ・・・・・う、うん。そうなの」
うまい具合に勘違いをしてくれているナルト君に便乗して、つい頷いてしまった。
ナルト君は「なんだー。ヒナタも授業嫌いだったのかー」と嬉しそうな笑顔になる。
授業よりも何よりも。
私が気になるのはナルト君のことなのだけれど。
ナルト君は「にっこり」と笑う。
「結構前から気になってたんだけどさー。何かスッキリしたってばよー」
気に・・・・・・なってくれていたの?・・・・・・・私のことを?
治まりかけていた胸の高鳴りがまたしても高揚してくる。
少しでも私のことを気にかけてくれているのなら。
可能性はゼロではないはず。
ナルト君の心の中を私で溢れさせる可能性は。
今なら言えるかもしれない。
実はナルト君のことを見つめる為に後ろの席に座っているのだと。
そうやって眺めてるだけで幸せに浸っているのだと。
私は貴方を好きだから。
そう、今なら言えるかもしれない。
今なら・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・わ、私・・・・・・・・・・・」
「ん?どうしたってばよ??」
体が熱くなる。
ドキドキする。
両手の指をモジモジとさせて、それでも一生懸命に震える声を絞り出して。
「ナルト君。私は・・・・・・・・・・・」
貴方のことが好きなの。
「あ!サクラちゃ〜んvvv」
言いかけた私の後ろを桃色の髪の女の子が横切った。
ナルト君が目を輝かせてそちらへ手を振る。
その顔はなんて楽しそうなのだろう。
なんて幸せそうなのだろう。
なんて・・・・・・・・・
知らず、ぐっと唇を噛んでいた。
「何よ、ナルト。アンタ、またヒナタに余計なこと言って困らせてるんじゃないでしょーねー?」
訝しげに私とナルト君を交互に見つめるサクラちゃん。
ナルト君は慌てて両手を振る。
「違うってばよ!そんな困らせるようなことなんて・・・・・・」
「どーだか。ヒナタ、アンタもナルトなんかの言うこと真に受けちゃ駄目よ〜?」
そのサクラちゃんの言葉に胸がズキリと痛んだのが分かった。
それはきっと私の心配をして「気にするな」という意味で発せられた言葉なのだろうけれど。
でも。
それは。
先程のナルト君の発してくれた言葉。
“気になっていた”と言ってくれたその言葉。
トクベツな意味が込められているのではないかと胸をときめかせていた私は。
それさえも何の意味も無い他愛も無い言葉なのだと言われているようで。
私には「何も期待するな」という風に聞こえてしまった。
「そだ。ねーサクラちゃんっ。この前の授業がよく分からなくってさー」
「・・・・・・寝てるからでしょ、それは」
冷たくあしらうサクラちゃんに対して
ナルト君は情けない声をあげてすがりつくように上目遣いをする。
「そんなこと言わないで教えてくれってばよ〜。頼むよ、サクラちゃ〜ん」
サクラちゃんは「ちらっ」と私へ視線を向けた。
その視線はあからさまに私を気にかけたような雰囲気を含んでいて。
それが余計に辛くなった。
「ヒナタに教えてもらえばいいじゃ・・・・・・・・「サクラちゃん、ナルト君に教えてあげて」
私はサクラちゃんの言葉を遮るようにして言葉を紡いだ。
サクラちゃんが少し驚いたような顔を向けてくる。
私はにっこりと、やっぱり控えめに笑って。
「サクラちゃんは頭もいいし、私よりも綺麗にノートをとってるもの」
「でも、ヒナタ・・・・・・・」
「私、これからちょっと用事があるの・・・・・それじゃ・・・・・・・・・」
「カタリ」と立ち上がった私に、サクラちゃんは動揺する。
ナルト君は目をパチパチとさせて。
そんなナルト君に少しだけ微笑んで「またね」と軽く言って教室を後にした。
振り返って金色と桃色を見ることはしなかったけれど。
その代わり、廊下をトボトボと歩きながら、皆に気付かれないように一度だけ深い息を吐いた。
言えなかった言葉。
飲み込んだ想い。
全部吐き出してしまえば。
ワタシはアナタの中に存在できるのだろうか。
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