『今日も明日も明後日も』









「買い物に行こう」とリーを誘ったのは私。

「バーベキューをしようよ」とガイ先生に言ったのも私。

だっていっつもあっっっっつくるしいほどに修行だの任務だのばっかりだったから。

だから少しだけ皆で楽しめる休日がほしかった。

少しだけ。

リーとのんびり過ごせる休日がほしかった。



「デザートは桃にします?それとも葡萄?」


木の葉の大型スーパー。店内は煌々と明るく照らされていて清潔感がある。

バーベキュー用にと肉やソーセージ、野菜を吟味していた私に、

リーは嬉しそうに果物を持ってやってくる。


「僕としては桃の方が旬なような気がしますが、剥くのが大変ですよね」


「そうね」


あまりにも楽しそうなリーの姿に、私は「クスリ」と少しだけ笑みを零した。

買い物カートを押しながら、私は手に持っていたトマトを売り場へ返す。

サラダを作ろうと思ったけど、バーベキューじゃ面倒か・・・・・・


「あ。テンテン!タレはどうしましょう?」


「あーそうね。まだ選んでなかったわ」


私の返答を聞くや否や、リーは颯爽と走り出してしまった。

それから2分も経たないうちに、手に「焼肉のタレ」の瓶を持ってやって来る。


「テンテン、持って来ました!」


「・・・・・あ、ありがと」


買い物カートをコロコロと転がしていく私の横を、りーがあれこれと言いながら

バーベキューの話に花を咲かせる。

何だかこうしていると・・・・・・・・・

まるでリーとカップルみたい・・・・・・・・・・

そう思えたら、体がかぁっと火照り始める。


「それにしても、テンテンはとってもナイスアイデアでしたね!」


「えっ」


どぎまぎしている私の心中を知らないリーは、満面の笑顔を向けてくる。


「皆でバーベキューだなんて。親睦を深めるにはもってこいなイベントですっ」


「そ、そうね」


・・・・・・・・とは言っても。

私は別にそういうコトが目的だったわけではない。

本心を言ってしまえば。

リーとどうにか休日を一緒に過ごせないものかと考えて。

それで考えた「バーベキュー」をガイ先生に進言してみたら二つ返事で「OK」をもらえて。

ガイ先生とネジには場所の確保とバーベキュー用の器具を調達してもらうことにして、

私はうまい具合にリーを買い物へと誘うことに成功した。

ただ、休日にリーと。

少しだけの時間でもかまわないから。

それでもリーと二人だけで居たかったから・・・・・・・


私の隣でスキップでもし始めるのではないかと思うくらい上機嫌なこの男の子は

決してそんな私の淡い気持ちになんて気付いてはいないのだけれど・・・・・・。

それだけが虚しい。それだけが唯一幻滅してしまうトコロ。


「テンテン!果たしてこれで足りるでしょうか?」


買い物カートの中を覗き込んで、リーが私に尋ねる。

カートの中にはカルビが2パック、ロースが1パック、ソーセージが2袋。

それとは別にキャベツが半玉と玉ねぎが大玉で3つ。人参1本と南瓜を半切れ。

それからリーがいつのまにかカゴの中に入れていた葡萄と桃。


「・・・・・・・・こんなもんじゃないの?」


少なくは無いと思うけど・・・・・・・。

私は首を傾げてみた。

見上げるリーの顔は「ムムム」と考え込んでいる様子で。


「だって、考えてみて下さい。テンテン」


「何がよ?」


「恐らくガイ先生のことです。普通のバーベキューではないと思うんですよ」


ふ、普通のバーベキューじゃないって・・・・・・・・・・

・・・・・・・・ま、まぁ。ガイ先生は見た目普通じゃないけどさ・・・・・・。

・・・・・・・・って、それ言ったらリーも普通とは言えない気も・・・・・・・・・・


「普通じゃなかったらどうなのよ?」


「ガイ先生は“いつ何時も忍であることを忘れるな”と仰っています」


「・・・・・・・・・・ま、まぁ、そうだけど・・・・・・・」


それとこれとどういう関係が・・・・・・・。


「ですから。きっとこのバーベキューも修行の一環になる!!!と思うわけですよっ」


私の肩が「ピクリ」と微かに揺れた。

押していた買い物カートもピタリと止まる。

また始まった・・・・・・・

どうしていつもリーはそう・・・・・・・・・


「唯の親睦会ではそのへんのスリーマンセルと一緒ですからねっ」


リーはさも当たり前のように腕を組んで一人大きく「うんうん」と頷く。

徐々に私が不機嫌になっていくのが分からないのだろうか、この男は。


「自分ルールを達成できなければ食べられない!とか、どうでしょう?きっと修行になりますよ♪」


嬉しそうにそう言ってくるリーを、私はただ眉をひそめて見つめる。

修行、修行、修行って・・・・・・・・・・・何よっ。

ようやく私の不機嫌さが分かったのか、リーが「あれ?」と首を傾けた。


「テンテン、どうしたんです?」


「・・・・・・・・・・・・別に」


先程とは比べ物にならないくらいに冷め切った私の返事。

リーの顔つきも急に変わった。


「別にテンテンにまで自分ルールを強要するわけでは。ただその方が互いに伸びるかなって・・・・・・」


そんなのどっちだっていいわ。

そんなこと、これっぽっちも興味ないもの。

私はただ。

今日くらいは。

休日くらいは。

任務だとか修行だとか、そんなものは抜きにして。

ただ、リーと一緒に過ごしたかっただけなのに。

どうしてリーは分かってくれないの?


イライラが段々と心を支配していく。

ついと買い物カートの方向を変えて押し始める私に、リーが慌てだした。


「ま、待って下さい、テンテン!怒らせてしまったのなら謝りますからっ」


私が何で怒っているのか分からないくせに。

簡単に「謝る」とか言わないでよね、馬鹿っ!

こんなことなら買い物にはネジを誘うんだったわ。


「今日も明日も明後日も、アンタの頭の中は“修行”でいっぱいなんでしょーね」


皮肉をたっぷり込めて、追いかけてくるリーにそう言ってあげた。

そして私は。

私の頭の中は。

今日も明日も明後日もリーのことでいっぱいなのよね。


リーと私の想いは。

今日も明日も明後日だって。

決して交わりはしない。


そう思ったら余計に虚しさが込み上げてきて、私は苦しくなった。

もう止めた。

バーベキューなんて中止よっ。


「テンテン、待って下さい!」


リーの手が私の腕を捕らえた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなこと、言わないで下さい」


私の後ろで弱々しく聞こえてきたリーの声は。

少し泣きそうで。淋しそうで。


分かってるわよ。

なんでそんなにリーが強くなりたがってるのか、なんて。

そんなの。

ずっと一緒に居たんだもの。

分かってるに決まってるじゃない。

でも。

でも、ただ一緒に居たいって思う私の気持ちにも。

気付いてよ、馬鹿・・・・・・・・・・・


ゆっくりと振り返ると、そこには項垂れて肩をがっくりと落とすリーがいて、

私はやっぱりそんなリーを突き放すなんてこと、できなくて。


「・・・・・・・・・・分かってるわよ。ちょっと言ってみただけなんだから」


私の腕を掴むリーの手にそっと触れてみた。そしたら少しだけ気持ちが和らいだ。

あったかい・・・・・・

ごめんね。リー。

私、ひどいコト言っちゃったね。

アンタの気持ち、分かってるのに。

困らせるようなコト言っちゃったね。

ごめんね。

リー、ごめんね。


「・・・・・・・・・・・・・・・・ネジとガイ先生、待ってるから行こ?」


この想いに気付いてもらえないもどかしさは苦しいけれど。切ないけれど。

私のワガママがリーを苦しめている、その姿はそれ以上に見たくなくて、

しょんぼりとしているリーの頭を優しく何度も撫でてあげた。













ブラウザバック





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送