『君を追う日々』









「鬼はアンタね」


そう言って、オレを指差したいのは上機嫌な笑顔を向けてきた。

オレはムッとした表情で、そんないのに反論する。


「なんでオレなんだよ?ジャンケンで決めようぜ、公正にっ」


「何言ってんのよ。ちゃんと公正じゃないの」


いのはけろっとした物言いで、さも当たり前だと腰に手を当てる。

どこが公正だ、どこがっ!

昼頃から木の葉の公園に集まったオレとシカマルとチョウジ、

それからいつのまにか参加していたいのの四人で

公園内を走り回って鬼ごっこをして遊んでいたのだが。

四度目の「鬼決め」でオレといのは対立した。


「だって私もシカマルも、チョウジだってもう鬼やったもの」


「そりゃジャンケンで負けたからだろっ。運も勝負のうちだっつーの」


「駄目よ。それじゃ不平等じゃないの。だから次の鬼はアンタがやるのよ」


一向に引かないいの。

負けじと張り合うオレ。

どちらの言い分が正しいのか、そりゃオレ自身は勿論自分の考えの方が正しいと思ってる。

だけど、いのは言い出したら頑として聞こうとしない。

こうやって言い合っていると、そのうちにシカマルとチョウジが割って入ってくる。

それがオレといのの言い合いを止める手順だ。

早速動き出したのはシカマルだった。

一つため息をついていのの肩へと手を置く。


「いの、やめとけって。ジャンケンで決めようぜ。めんどくせーけど」


「なんでよ!?鬼役は平等にやるべきだわっ!!」


いのが不満たらたらの顔でシカマルに詰め寄った。

シカマルがオレの意見を尊重してくれたことが嬉しくて「ふふん」と鼻で笑うオレの前、

チョウジは苦笑しながらいのをなだめる。


「きっとキバなら次のジャンケンでグーを出してくれるよ」


・・・・・・・・・・・・ちょっと、待て。チョウジ。

そりゃアレか?オレにわざと負けろって言ってるのか??

いのが「ふむ」と考え込んで、それからオレに顔を向けて「ニヤリ」と笑った。


「そおね。キバだったらグー出すわね、きっと」


・・・・・・・・おいおいおい待て。何だ、そのプレッシャーはっ。


「だ、出さねーぞ、グーなんてっ!!なんでオレが言われた通りに出さなきゃなんねーんだよっ!!」


そんなのジャンケンじゃねーだろっ!!

いのが途端に膨れっ面になる。


「何よ、ケチー!グー出しなさいよっ!」


ざっけんなっ!オレはグーなんて出すかっ!

チョウジのヤツが余計なコトを言いやがるから・・・・・・

ギロリとチョウジを睨みつけてやったけれど、チョウジは何処吹く風でほにゃにゃんと笑っている。

あの目は「キバはグーを出すよね?」という目だ。

〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・っ!!半分脅しじゃねーかよっ!!


「んじゃ、早いとこジャンケンで決めようぜ」


シカマルが右手を出す。いのもチョウジも。

オレも何だか煮え切らなかったが、とりあえずオレの意見が通ったからまぁ、いいか。

シカマルがちらとオレを見てくる。


「おい、キバ」


「・・・・・・んだよ」


「オレはパーを出すぜ」


「 !! 」


いのが顔を輝かせる。その横でチョウジはふふっと笑って。


「じゃあ、僕もパー出すね」


「 !!! 」


シカマルの宣言に合わせて、チョウジまでもがそう進言してきた。

コ、コイツら・・・・・・・・・・

要するに暗に「鬼になれ」と言っているんだ、このオレに。

・・・・・・・・くっそ。結局それじゃいのの意見が通っちまうじゃねーかよっ。

あぁ、そうだった。

いつもコイツらはどんな時だっていのの味方をするんだった。

・・・・・・・あぁ、もう・・・・・・・・・


「はいはいはーい!私も!私もパー出す〜♪」


いのも嬉しそうに手を挙げてアピールをしてきた。

この幼馴染どもめ・・・・・・・・・


「じゃーんけーん・・・・・・・・・・ぽんっ!!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



いのが顔を上げてオレを見つめた。

そうしてゆっくりと笑顔になっていく。

・・・・・・・・・・・はぁ。全く。

オレってなんていいヤツなんだ。


「やったー!今度はキバが鬼ねっ!!」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・分かってるよ、くっそ・・・・・」


プレッシャーに負けて、結局オレはグーを出しちまった。

目の前の三人は宣言通りにパーを出しやがった。

オレがチョキ出したらどうするつもりだったんだよっ。

・・・・・・・・まぁ、いい。今回は優しいオレ様が折れてやる。


「そこで10秒数えてから始めてよっ」


意気揚々と目を輝かせているいのに「分かってるよ」とヤケクソで応えてやる。


「逃げるわよーっ!」といのは颯爽と走り出す。

チョウジもシカマルも散り散りに走っていく。

そんな光景をぼけぇっと眺めながらゆっくりと10秒を数えて。


「行くぞっ!!」


大きな声と共に、オレは走り出した。

まずはチョウジだっ。

広いとは言えど公園の敷地内から外へ出て行ってはいけない。

目の前にある大きなオブジェのような滑り台を登るチョウジを発見して

オレは一目散に滑り台へと駆け寄った。


「えぇ!?僕から狙うの!?」


「当ったり前だ!早く終わらせて鬼交代だっ!」


滑り台の頂上でワタワタとするチョウジに向かって急いで駆け上るオレ。

けれど、オレが頂上に着く前に、チョウジのヤツは滑り台から勢いよく下っていってしまった。


「あぁっ!!くっそ・・・・!!」


「わー!逃げろー!」


オレもチョウジに合わせて滑り台を下る。

下り終えたところで、ジャングルジムの上でぼけっとしているシカマルが目に入った。

物思いに耽っているのか。

近くにオレがいることにも気付いていない様子で。

・・・・・・・・しめたっ!シカマルに鬼交代させてやれっ!!

オレは気付かれないようにシカマルの後方に回ってジャングルジムをよじ登る。

てっぺんまで登りきったところでシカマルに思いっきりタッチしてやろうと構えた。


「タッチ!!」


今度はシカマルが鬼だっ!!へへーんっ

・・・・・・・・・・って、あれ?


オレにタッチされたにも関わらず、シカマルは動かない。

変に思って、オレは首を傾げてシカマルに声をかける。


「・・・・・・?おい、シカマル?」


「・・・・・ん、あぁ、キバか」


ようやくオレに気付いたのか、シカマルはちらとオレを見つめて、

けれど直ぐに違う方向へと視線をかえた。


「おい、シカマル?」


シカマルの視線の先へとオレも目を見やる。


「・・・・・・・・・・あっ・・・・・・」



その先にいたのは。

公園の少し外にいるいのの姿で。

その傍には。

黒髪を揺らした男の子が立っていて。



「・・・・・・・あれって、確かさ・・・・・・・」


いのが前に言っていた・・・・・・・・

シカマルがオレをちらと見て、静かに頷いた。


「あれ、いのの好きなヤツ」



・・・・・・・・・・・・・ズキン。



「サスケとか言うんだと。・・・・・・オレは好きじゃねーけどな。あーゆータイプは」


口をへの字に曲げたシカマルは、しかめっ面で苦々しい口調だ。

どうやら鬼ごっこの最中に、いのはサスケが公園の傍を通りかかっていることに気付いたらしい。

慌てて駆け寄っていって声をかけたに違いない。

いのがサスケに何かを話している。時折笑顔を見せながら。

頬はピンク色に染まって。

どこからどう見ても「恋してます」って顔で。


「・・・・・・・・・・・・何か。嬉しそうだな、いののヤツ・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・そうだな・・・・・」


ぽつりと呟いたオレの言葉に、シカマルも小さく頷いた。

オレ達と鬼ごっこの最中だってのに。

サスケなんかが視界に入るとそっち行っちまうのか・・・・・・・



敵わないのかなぁ。オレじゃあ。




「なぁ、シカマル」


「あー?」


ジャングルジムの頂上に座って、オレは遠くのいのを眺めながらシカマルに話しかける。


「オレさ、鬼ごっこって好きなんだ」



だってさ。

いのが鬼ならさ。

アイツ、オレのこと追いかけてくれるだろ?

オレが捕まるまで。

必死になって追いかけてくるだろ?



「けど。オレ、鬼やるのは嫌なんだよなー」



だって。

そうじゃなくても、オレは毎日いののことを追いかけてんのに。

「鬼ごっこ」でも「鬼」をやるってのはさ。

ゲームの中でも、アイツのこと追いかけなんなきゃなんねーんだもん。



ゲームの中だけでもいい。

アイツに追いかけられてみたい。

そう思っていた。



でも最近じゃ、そうじゃないんだ。

最近じゃ・・・・・・・・・



「・・・・・・オレも嫌だ」


シカマルがふと零した言葉にオレは「えっ」と動きが止まる。

シカマル、今なんて・・・・・・・・?


「めんどくせーよ。どっちも」


シカマルは「はぁ」とため息をついてオレの肩を叩く。


「鬼ごっこすんのも、鬼すんのも。オレ、寝る方が好きだし」


・・・・・・あぁ、なんだ。

そういうことか。

一瞬ドキリとしてしまった。

もしかしたらシカマルもいののことを・・・・・・

オレと同じようにいののこと・・・・・・・

・・・・・・・・んな訳ないか。


「つーわけで、お前が鬼な」


「・・・・・・・は?」


咄嗟に間抜けた声を発してしまった。

オレの目の前で「ニヤリ」と笑ったシカマルは、勢いをつけてジャングルジムから飛び降りた。

・・・・・・・・・・あぁ、しまった!!!

話に夢中になり過ぎて、シカマルが鬼だってこと忘れてたっ!!


「おい、待てっ!」


「誰が待つかっ」


オレも慌てて飛び降りて、けれどやっぱりいのが気になったオレは、

シカマルを追いかけずにいのの方へとダッシュで走り寄った。

いのがオレに気付くのが一足遅かった。

オレはいのの背中を「ぽんっ」と軽くタッチしてやった。


「タッチ!いのが鬼だかんなっ!」


「あっ。キバっ!」


「しまった」という表情をしたいのは、サスケとの話もそこそこに

オレへと向きを変えて走ってくる。


「待ちなさいよ、キバっ!!アンタ、卑怯よっ!」


「公園の敷地内ってのがルールだろ?お前、思いっきり出てたじゃんっ。お前の方が卑怯だ」


「何ですってー!?」


「おーおー。怒りまくってるから、いのは頭からホントに角生えてくんじゃねーの?」


「きーーーーっ!!!言ったわねー!?」


いのの機嫌を逆撫でしたオレはそれでも追いつかれる心配は無かった。

いのとオレじゃ、オレの方が足速いんだもんねー。へへーんっ。

そう。

鬼ごっこじゃ、いのは一生オレには追いつかないんだ。

だからオレを捕まえられないんだ、いのは。

オレが日々のいのに追いつけないみたいに。

オレが日々のいのを捕まえられないみたいに。


「待ちなさいよっ!!!」


「誰が待つかよっ」


いのが真剣に追いかけてくること、それがこんなにも嬉しく感じられる。

だからやっぱり鬼ごっこは好きだ。

でも。

これがゲームじゃなかったらいいのにって。

最近そう思うようになったのも事実。








オレを追いかけてきてくれよ。

オレがキミを追いかけているみたいに。













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