『言葉にならない』









授業をサボるのは珍しいことじゃなかった。

授業に出てたって寝てるだけなら、授業に出ることも無い。

子供はもっと有意義に過ごす方がいい。

中忍教師、イルカが「待て!!」と追いかけてくる。

もちろん捕まるなんてヘマはしない。

子供特有のすばしっこさで、するりと駆け抜けていったオレとナルト。それにチョウジにキバ。

所謂落ちこぼれ四人組は、今日も授業を自主的にボイコットしていた。




草むらにごろりと寝転んで空を見上げる。

空模様も昼寝にはもってこいだった。

アカデミーで授業を受けているよりも全然気分がいい。

寝心地もいいしな。

ぼけぇっとしているオレの横に、

原っぱで遊んでいた三人のうちのナルトが近づいてきた。

「ふぅっ」と息をついて腰を下ろしてオレと同じように空を眺める。


「授業ってなーんであんなにつまんないんだろなー」


「・・・・・・・・オレが知るかよ」


何を言い出すのかと思えば。

気にも止めずにナルトの言葉をぼんやりと聞き流す。


「あーそうそうっ。オレってば、最近密かに手裏剣の練習してるんだってばよ!」


「ニシシ」と自慢気に笑うナルト。

手裏剣練習なんて、そんなメンドクセーことよくやるなー、お前。


「今度の手裏剣のテストじゃ、オレ、絶対一番になってやるんだもんね」


意気込むナルトのその目的は何となく分かった。

オレは隣に座るナルトを見上げる。


「・・・・・・・・・サスケと張り合ってるのか、お前」


「ししし。アイツはオレのライバルなんだってばよ」


メンドクセー。よくやるよ。


「ライバルって・・・・・メンドクセーな、その響き」


楽して生きれればそれでいいじゃあねーか。

オレをしげしげと見つめるナルトを無視して、オレは目を瞑る。


「シカマルってば・・・・・そんな生き方してっと、いのに怒られるってばよ?」


「・・・・・・・・・・・なんでいのが関係すんだよ。メンドクセー」


「だって・・・・」


ナルトが少し考えるようにして言葉を切った。


「だって、いのが言ってたよ?」


眉をひそめてナルトへと視線を送ってやった。


「・・・・・・・・・・・・・何を言ってたんだよ?」


「ふむ」とナルトは手を口元にやって、それからニンマリと人の悪い笑みを浮かべる。


「そっかそっか。いのってば、シカマルには言ってないんだー。へー♪」


ナルトの態度に少しムッとしてしまった。

ちらと眺めれば、得意げな顔をされた。


「・・・・・・何だよ、それ」


「べーつにー♪何でもないんだってばよー♪」


・・・・・・・何でもなくねーだろ、そこまで言っといて。


「いのが言ってないんだったら、オレが言っちゃうのはまずいしー」


含みのある言い方に、オレはいよいよ機嫌を損ねてしまった。

むくりと上体を起こして、後ろに手をつく。

そうして隣に座るナルトを「ジロリ」と睨んでやった。


「・・・・・・・・・何だよ。言えよ、ナルト」


「それは無理だってばよ」


ここまで引っ張っておいて「無理」とは何だ、「無理」とは。

まぁ、いののことだ。

とんでもない発言には違いない。

遠くの方ではキバとチョウジが変化の術で遊んでいる。


「これはいのとシカマルのことで、オレが首を突っ込むことじゃないしさー」


ますます気になる言い方だ。

一体アイツはナルトに何を言ったんだ?


「隠すなよ。メンドクセーな」


「そう。面倒なことになるから言えないんだってばよ」


一人納得した様子のナルトは、深く頷いてそう言った。

・・・・・・・気に入らない。何だよ、それは。


「・・・・・・・・・・・もういいよ。聞かねぇ。どーでもいいし」


これ以上イライラするのも損だと思って、もう一度ごろんと勢いよく寝転んでみた。

いのが何を言ったかなんて。

もうどーでもいいや。メンドクセー。

もう寝よう。そうしよう。


「思うんだけど」


と、ナルトは不機嫌極まりないオレに平然と話し掛けてくる。

寝るつもりのオレは、ますます訝しむように瞑った瞳を嫌々開ける。


「・・・・・・ったく。今度は何だよ?」


怪訝そうなオレに構わず、ナルトは思ったことを述べていく。


「シカマルとサスケってさ」


「・・・・・・・・・んだよ」


何なんだ、その取り合わせは。

ありえない組み合わせに、オレはもう訳がわからず気味が悪ぃとさえ思ってしまった。


「シカマルとサスケってさ、もしかしたら・・・・・・」


ナルトが真っ直ぐにオレを見つめてきた。




「もしかしたらライバルになるんじゃねーの?」




「・・・・・・・・・・・・・はぁ?」




オレはもう開いた口が塞がらない状態だった。

何を言っているのか理解不能だった。

どういう状況で、オレがサスケなんかのライバルになると言うのだろうか。

訳分かんねーよ。


「・・・・・・ナルト、おまっ・・・・何言って・・・・・・」


あまりの唐突な発言で、言葉にならなかった。

このナルトの発言の根拠は一体どこにあるのか。


「もち、オレはサスケをライバルだと思ってるけどさー」


・・・・・・・また話が元に戻っている。

このままではゴールの見えない話としてぐるぐると回ってしまいそうだ。


「でも、シカマルとサスケもライバルになったらさー」


「・・・・・ちょ、ちょい待ち。ナルト」


「ん??何だってばよ?」


またしても上体を起こすオレ。

不思議そうな顔でオレを見つめるナルトに深い呆れたため息が漏れる。


「・・・・・・・何がどうなってそうなるんだよ?」


きょとんとするナルト。

けれど直ぐに「ニシシ」と笑みを零す。


「だからさー。いのが言ったことを考えるとそうなるんだってばよー」


あぁ、もう・・・・・・・・

結局はそこに戻るのか。

「はぁ・・・・」と長いため息が零れた。


「じゃあ、まずそのいのの言ったことを言ってみろって」


「だから無理だってば」


「何が無理なんだよ?」


「だって、オレがいのに怒られちゃうじゃん」


・・・・・・・・この不毛な言い合いは何なんだろうか。


「なんでナルトが怒られんだよ?言ったのは本人だろ?」


「そうだけど・・・・・でも、オレから言うのは筋違いなんだってば」


「筋違い?」


ナルトはこくんと頷いた。


「シカマルはいのからちゃーんと聞くべきなんだってばよ。うん」


何なんだ。

ますます訳が分からない。

頭の痛くなるような押し問答を経て、そうしてやっぱりオレの方が先に根を上げた。


「・・・・・・もういいよ。分かったよ。聞かねーよ」


半ば諦めを帯びたオレの声色に、

ナルトは「いのから聞くのが一番なんだってば」と繰り返す。

とうのオレはもうどうでもいいや精神になっていた。

いのが何を言って、ナルトがそういう判断をしたのか、非常に不可思議ではあったものの

だからといって、それを追求するほどオレは好奇心なんて無い。

楽して生きたいんだ、オレは。

なんでそのことでわざわざいのの怒りを買わなくてはならないのか。

全くもって訳が分からない。


「・・・・・・・・あーもーメンドクセー・・・・・」


考えたら余計に頭が痛くなってきた。

こんなことなら教室で居眠りしてた方がよかったかもしれない。


「シカマル、頑張るんだってばよ」


ナルトが「ぽん」と軽くオレの肩を叩いた。


「・・・・・・・・・・・もういいよ、メンドクセー」


「そんなこと言うなってばよ。いのが怒るぞ?」


いのが怒ろうが何しようが、もうどうだっていいって。

メンドクセー。あーメンドクセー。


「頑張って出世するんだってばよ?シカマル」


「応援してるってばよ!」とナルトは笑顔を見せる。

・・・・・・・・・・・・・ちょっと待て。

出世って何だ。出世って。

変な汗が出てきたぞ、オレ・・・・・・。

ようやく立ち上がったナルトはキバとチョウジの元へと駆けていこうとする。

オレは柄にも無く慌てた。


「おい、ナルト!出世って何の話だ!?」


パタパタと走り遠のくナルトがオレの声に反応してくるりと振り返る。


「だーかーらー!いのが言ってたんだってばよー」


いのが言ってたこととオレの出世とどう関係すんだよっ!


「“シカマルには出世してもらうんだ”ってー」


「・・・・・・・・・・・はぁ!?」


素っ頓狂な声が出た。

・・・・・・・・・な、何なんだ、それは。


「“サスケ君に負けないエリートになってもらうんだ”ってー」


「・・・・・・・・・・!!??」


またもや絶句した。

「あーあ。言っちゃったや」と口に手を当てるナルト。

それから「オレが言ったって内緒にしといてほしいってばよー」と

オレに手を振りキバ達の元へとさっさと走って行ってしまった。






いのの発言をまとめると。

それは。

要するに。


「オレに稼がせて自分は楽しようってことか、アイツ・・・・・・・・・・」


もう言葉にならなかった。

オレはいつまでアイツのワガママを聞かされるのだろうか・・・・・・・

オレの“悠々自適のんびりライフ”の夢が、よもやいのによって絶たれるとは。


「・・・・・・・・・・はぁ・・・・・マジかよ・・・・・」


がっくしと肩を落とすオレとは対照的に、三人の騒がしい声が響いていた。




それでもまぁいいかと思えるオレは、もはや思考回路が麻痺しているのだろうか。

いののために働くのか・・・・・・・・


「・・・・・・・・まぁ、それも悪くねーか」


口にしてみたら、何だか笑えてきてしまった。




うん。

それも悪くはない。













ブラウザバック





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送