『今はまだ』

初めから、分かっていたことなのかもしれない。

彼が私ではないあの子を見つける、なんてことは。

朝からサクラと買い物に出かけて、小物屋さんを覘いたり

新作の洋服を観に行ったり、最近流行の甘味屋さんで休憩してみたり。

ほら、これって別に喧嘩しなくたってできるのよ。

他愛もないおしゃべり。同じことを考えて、同じことで笑って。同じ人を好きになって。

ただ、唯一私とこの子の違うのは。

・・・・・・・・・・・・同じような想いがもらえなかっただけ。

「ねぇ、いの」

「何よー。まだ食べるの、アンタ」

ザワザワと騒がしい店内で、買ったモノを横に置きながら、テーブルに置かれているデザート。

私は食べかけていたぷりんのスプーンを止めて、前に座るサクラを見つめた。

サクラは両手で頬杖をついて、「ふふっ」と小さく笑う。

あぁ、なんでかな。

なんでアンタはそんな可愛く笑えちゃうのかしら。

・・・・・・・・・・サスケ君は、この笑顔にときめいちゃったのかな・・・・・

「サスケ君がね」

条件反射のように体が「ピクン」と跳ねた。

「サスケ君が、最近凄く楽しそうなの」

そう言って、幸せそうに微笑むサクラ。

私に一体どうしろと言うんだろう。

止まっていたスプーンを動かす。さも、平静を装って。

「いいことじゃなーい。ニヒルなサスケ君も好きだけどね、私ー」

これは、他愛もない会話。そう、何の変哲もない、普通の会話。

サクラが小さく笑う。

ほら、また。

アンタ、最近可愛くなったわよね。

・・・・なんて、悔し過ぎるから口には出してあげないけれど。

「うん。私もね、そういうサスケ君も好き。でも、今のサスケ君はもっと好きなの」

「・・・・・そう」

“今”のサスケ君て。

それはつまり。

“私の知らない”サスケ君のこと？

あぁ、悔しい。悔しいから聞き返してやんない。

スプーンに乗るぷりんを口に流し込んだ。

「たまにね、すっごく優しい笑顔になるのっ」

嬉しそうにはにかんで、サクラは鼻歌でも歌い出しそうな様子で話してくる。

そう言ってるアンタも、じゅうぶん優しい笑顔になってるのよ。

・・・・・・悔しいから教えてやんないけど。

「あっそう。のろけ話は他でやってくれるー？」

「！！の、のろけ話なんて・・・・そんなんじゃないわよっ！」

途端紅くなって、サクラが私に突っかかってきた。

そうね。

まだ、のろけ話じゃないわよね。

でも、いつしか全部のろけ話になっちゃうんでしょう？

・・・・・なんて、悔しいから絶対言ってやらないけれど。

「ただ・・・・私は、今のサスケ君はいい方向にいってるなーって・・・・そう思っただけで・・・・」

ぼそぼそと小さく言いながら、少し照れた様子で口ごもるサクラ。

胸が苦しい。苦しい。苦しい。

声に出して叫べば楽だけど。

そんなの、負けを認めたみたいでもっと悔しい。

だから、言ってやらない。叫んでやらない。

「そうね。サスケ君、アカデミーの頃はちょっと・・・・冷たいトコあったし」

私が知っているのは“昔”のサスケ君。“昔”のあの人。

その事実が、何だか余計に虚しさを感じさせた。

ねぇ、サクラ。

“今”のサスケ君はどんな感じ？どんな人？

聞きたいけど、聞けやしない。

だって、そんなこと聞いちゃったら。

私は。

全部認めなくちゃならなくなるから。

私ではなく、彼がアンタを選んだんだってこと。

彼がトクベツに笑う相手がアンタなんだってこと。

アンタの方が、あの人のことをいっぱいいっぱい知ってるんだってこと。

認めたくなんかないのよ、まだ。

心のどこかで諦めたくない私がいるのよ。

もう答えは出ているはずなのに。

そんなの、アンタの様子を見てれば一目瞭然なのに。

それでも。

それでも、簡単に諦めるのは負けを認めちゃうことになるから。

それがまた悔しくて。

だから、聞きたくても聞けないことはどんどん山積みになっていく。

どんどんどんどん。

一生ライバルで行くつもりだったのに。

あの人のことで、こんなにも早くあっさりと負けちゃうなんて。

「・・・・・・・いの？」

塞ぎこんだ私に気付いて、サクラが不思議そうに目をパチパチさせてくる。

「何でもないわよ」

また私はスプーンでぷりんをすくう。さも、平静を装って。

ただ、一言。

そう言い返すのがやっとだった。

今はまだ悔し過ぎて、胸が痛過ぎて。

泣いちゃうことの方が多いけど。

思い出すのは、あの人のことばっかりだけど。

いつか絶対恋してやるんだ。

今以上の恋を。

あの人とは、違う誰かと。

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