『全部、嘘』









シカマルがいのと付き合うようになって、シカマルのヤツは付き合いが悪くなった。

ナルトやオレとどっか遊びに行くってことになっても、

いのの予定を聞いてから「今日は行ける」だの「今日は無理」だの言うようになった。

前は悪ガキ四人組で行ってた駄菓子屋にも、いつしか三人で行くようになっていて。

しかもそれがもう当たり前になってきている。

昔から三人だったんじゃないかって。

そんな気さえもしてきてるんだ。

たまに見かけるアイツの傍には。いののヤツが絶対居てさ。

なんだよ。惚気やがって。

ってさ、そう思ってたりしたんだ。






イライラは募る一方で。

だって、すっげームカつくじゃん?

今までは友達付き合いを大事にしてたヤツがさ。

彼女ができた途端、手のひら返したようにそっちを大事にするなんて。

別に友達と好きな人を天秤にかけて・・・・なんてことはしてないだろうけど。

でもムカつくんだ。

オレらを捨てたみたいに思えて。

そんでもって一人幸せそうにしてるのがさ。

無性にイライラするんだ。






「キバ、元気出してね」


チョウジに言われてオレは「はっ」て笑いが漏れちまった。

「元気出して」だって?

オレはもともと元気だっつーの。

これ以上にないくらいに元気だっつーの。

オレなんかよりもシカマルの方の心配をしてやれよ。

女一人にあんなにへろんへろんになりやがって。

アイツの将来の方がオレには心配の種だね。

しかも相手はあのいの。

いのだぜ?

あーんなワガママで身勝手主義のお姫様気取り。

どこがいいんだ。

本当に。

どこがいいんだよっ。

・・・・・・・あぁ、くそぅ。



「・・・・・キバ、八つ当たりするなってばよ」


ナルトが渋い顔でそうオレに言った。

八つ当たり?誰が誰にしてるって?

オレはそんなくだんねー気持ち、持ってねーぞ。

シカマルが誰と付き合おうと。そんなことで怒るわけねーじゃん。

オレはそんなに心の狭い男じゃねぇっ。

そう言ったら、何故かチョウジとナルトは哀れな目を向けてきた。

何だよ、何だよ、何だよっ!

なんでそんな目でオレを見るんだっ!

オレは別に羨ましいなんて思っちゃいねーぞ。

ホントだぞ。ホントのホントだぞ。

友人の幸せを妬むなんて、そんな女々しいことしねーぞ。

・・・・・・・なのに、なんでこんなに心は晴れないんだ。



「シカマルがオレらをないがしろにするのが悪いんだ」


そうだよ。

「いの」「いの」「いの」ってさ。

口開きゃそればっかりじゃん。

いののことばっかりじゃん。

そりゃ、ムカつくに決まってるだろ。

あームカつく。ホントムカつく。

訳分かんないくらいにムカつく。


「キバ・・・・・・」


ナルトが言い辛そうな顔でオレを見つめた。


「いののことばっかりってさ。それって・・・・・・」


チョウジも淋しそうな瞳を向けてくる。




「それってキバの方だよ?」





頭を鈍器で殴られた気分だった。



オレの方が?



オレの方がいののことばっかり言ってるのか?



嘘だろ。



そんなの嘘だ。



なんでオレがいののことばっかり言わなきゃなんねーんだ。

なんで・・・・・・




唇が震えた。

目の前にいる二人に気付かれたくなくて、オレはきつく唇を噛み締めた。







全部自己暗示をかけようとしていた。

自分を納得させようとしていた。

こんなにイライラするのは、シカマルのヤツがオレらよりいのを大事にするからだって。

でもチョウジもナルトも分かってたんだ。

そんなの全部、嘘なんだって。

オレがオレに嘘付いてんだって。

分かってるよ、そんなの自分でも分かってるんだ。

分かってるけど、分かりたくないんだ。

だから自分に嘘付いて、それで全部納得させようとしたんだ。

オレらより大事にしてるとか。

そんなことはホントはどうだってよかったんだ。






シカマルの日常にいのがいることは昔から当たり前だった。

でもそれは幼馴染として。一人の友人としての位置だったから。

だから別にオレも気にしてなかったんだ。

いのの予定を聞いて、オレ達との予定を決めるなんてこと。

この二人が付き合う前から当たり前だった。

よく行くあの駄菓子屋にだって、昔から三人でいくことの方が多かったんだ。

いのと付き合うようになってからじゃない。

分かってる。分かってるよ。

シカマルには見る目があるって分かってるよ。


だっていのを選んだじゃねーか。


アイツは確かにワガママだけど。

身勝手なお姫様気取りかもしれねーけど。

でもちゃんと相手のこと考えてるし。

めちゃめちゃ可愛い笑顔を見せるんだ。

オレが納得いかないのはそこじゃなくて。

なんでいのがシカマルを選んだのかってことなんだよ。



どこがそんなにいいんだよ?

なぁ。

シカマルのどこがそんなにいい?

どこがオレより優れてる?

オレのどこがまずい?

教えてくれよ。

なんでシカマルの傍でそんな幸せそうに笑えんだ。

なんでオレの傍じゃそんな顔してくれないんだ。

なぁ。

なんでだよ。

なんでシカマルなんだよ?


それが分からなくって、納得いかなくって。

だからムカつくんだ、オレは。





いのを大事にしないんならオレだって怒るさ。

でも違うんだ。

シカマルはちゃんといのを大事にしてるんだ。

誰が見たって。

シカマルはいつでもいののことを見守ってやがんだ。

だからムカつく。

「お前にはできないことだろう」って。

そう言われてる気がして。

オレだっていののこと大事に想ってるんだ。

シカマルになんて負けねーよ。絶対。

でもいのはシカマルを相手に選んだ。

その事実がまた許せなくて。

ただ悔しくて。

訳分かんないくらいに胸が痛くて。

どうやったら開放されるのかって考えて。

それで思いついたんだ。




全部嘘にしてしまえばいい。




オレの想いも。シカマルの気持ちも。いののコトも。

全部。全部。

言ってることと思ってることが全部逆方向。

それで自分に嘘付いて。

全部、嘘付いて。

そうやって自分を騙して知らなかったフリを決め込むほうがずっと楽だと思ったから。

いののことを想っていたなんてことに気付かなかったフリをしていた方が。

ずっとずっと楽なんだと思ったから。






「キバー?最近一緒に遊んでないね」


そう言ってオレに笑いかけるいの。


「また皆であの駄菓子屋に行こうよっ。ね」


眩しい笑顔を向けて、お前はオレにそう言った。

「また」っていつだ?

なぁ。

それっていつなんだよ?

守れない約束ならいらない。ほしくない。

来ることの無い「また」なんて優しさ、オレはいらない。





「シカマルとラブラブでよかったなー」


ニヤニヤ笑って茶化してやったら、頬を膨らませていののヤツがポカポカと叩いてきた。

でもな、そんなん全然痛くねーんだ。

叩かれた肩よりも、胸の奥のほうが何千倍も何万倍も痛ぇんだ。

お前がそうやって幸せで頬を染めるのが。

シカマルのためだけに幸せそうに微笑むのが。

どんだけオレの胸ん中傷つけてるのか。

幸せなお前は知らないんだろうな。



でも安心してくれ。

この真実は。

そう、この真実は。


全部、嘘にしてしまうから。


お前の幸せ、壊さねぇように。

全部。全部。

嘘にしてやるから。




だから今日だけは。


今日だけは。


大目に見ろよ。

本当のオレが泣いても。













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